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丁半 ページ6

時折僕とAは喧嘩をした。些細な口喧嘩もあれば、手も足も異能力も出る喧嘩もあった。僕は気に入った人間にすぐ金を差し出すAの性格がとても嫌いで、Aは全く交流関係を広げぬ僕の性格がとても嫌いだった。

「川端に少し甘すぎやしないか」
「芥川にそう見えるだけさ」

「聞いたぞ、横光に先週だけでなく昨日も金をやったのだろう」
「仕方ないだろう、困っている時はいつだって助けてやるもんだ」

 僕が何度言っても決して直らなかった悪癖。僕が注意をするたびにAは首を掻きながら口元を引き攣らせる。今度はもう少し控えると言いながら絶対にまたやる。
 更に腹が立つのが差し出す金額がいつも的確である事だ。多すぎず、少なすぎず。いつも予め計算しているのではないかと思う程に程よい金額であった。

 僕が誰とも話さずぽつんと独りで突っ立っているとAは大股でわざと大きな足音を鳴らしながら僕の方へやって来る。

「またぼっちか!」
「ぼっちではない」

 早口にあれもこれもと捲し立てるAに、お前が来たからぼっちではないと屁理屈を捏ねると若干にやけながら悪態を付く。最終的に足を踏まれてそれで終わるのが常であった。A曰く、そう言えば俺が許してしまうと確信して言っているのだから質が悪いにも程があるとのこと。

 そんな僕達が本気になって喧嘩をしたのがAがいつまで経っても僕の事を芥川としか呼ばないという事だ。一応恋人になったのだし、お前も芥川ではなく龍之介と呼べと前々から言っていたのだが、いつかいつかとそれきりにされてしまった。

「何故呼ばぬ」
「呼びたくないから」

 あんまりな理由に僕は拳を振り上げた。然し、すぐに避けられ逆に足蹴を喰らったのを覚えている。それから先はあまり覚えていないが、僕は羅生門を使用したことだけは確かだ。お互い医務室へ運ばれ、包帯だらけになりながらベッドの上で悪かったと謝り合った。

「名前を呼ぶとな、お前がいつまでも俺を引き摺ってしまいそうな気がするんだ」

 ぽろりと零された言葉が全てだった。空気に耐えられず無理矢理に起きて逃げようとしたら鼻血を噴き出したAはその後樋口に烈火の如く叱られていた。僕も下らない理由で騒動を起こすなと中原さんにそれはもう叱られた。

 それなのに、麻雀に同席していた者曰くAは最期に龍之介、龍之介と何度も消えそうな声で僕の名を呼んだらしい。

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袋小路窮鼠(プロフ) - 月さん» いつか書きたいとは思っていましたが遥か彼方の理想郷にしかなりませんでした。様々な可能性を秘めている彼はとても魅力的です。一ヶ月弱ではありましたが本当に有難う御座いました。時々月さんのお言葉を思い出し、いつまでも励んでいきたいと思います。 (2019年3月29日 18時) (レス) id: e982473bb6 (このIDを非表示/違反報告)
袋小路窮鼠(プロフ) - 月さん» こんなにも心の籠った感想が頂けてとても嬉しいです、有難う御座います!いかんせん短編しか書けないたちなので急展開ばっかりではありましたがそう言って貰えて何よりです。私は彼の生き様が何よりも好きなので敢えてそうしているのですがハッピーエンド良いですよね。 (2019年3月29日 18時) (レス) id: e982473bb6 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 左目から鯖味噌さん» 感想が長くなって申し訳ないのですが、本当に素晴らしかったですとだけお伝えします。こんな素晴らしい作品を生み出してくださってありがとうございました!これからも影ながら応援させていただきます。 (2019年3月29日 17時) (レス) id: f01d23ed14 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 左目から鯖味噌さん» 完結おめでとうございます。最後までとても引き込まれる文章で、軽く感動しました。私はハッピーエンドなお話が好きなので、そういうのを書いたり読んだりしているのですが、作者さんのあとがきを読んで、芥川は確かにそんな生き様だなと納得させられました。 (2019年3月29日 17時) (レス) id: f01d23ed14 (このIDを非表示/違反報告)
左目から鯖味噌(プロフ) - 月さん» 有難う御座います!確かにそんなイメージがありますね。もっと増えれば良いのにと思いつつ自給自足の日々です。菊池くんは何となくパッと見である程度の方に良い人って思えるようにしたくて悪戦苦闘していますがそう言って頂けて安心しました。引き続きお楽しみください (2019年3月3日 20時) (レス) id: e982473bb6 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:袋小路窮鼠 | 作成日時:2019年3月2日 13時

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