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あなたと踊りたくなりまして ページ3

「ばかって、なにが?」
「お互い分かった気になっていること」

 口元へ手を添えて、またマリーは笑う。はらりと落ちて来た前髪を耳にかけながら、その意味をきちんと理解しようと視線をずらしつつ思考の海へと旅立とうとするフランスの姿にまたおかしそうに笑った。

 マリーは常に笑みを浮かべることを心掛けていた。それが王妃にとってのマリーであり、民たちのためでもあった。
 尤も、我儘な小娘と昔から蔑まれていた彼女にそれを求める人はそう多くは無い。だが、かの男曰く…

「言わせておけばいいんだよ。そういう奴等は責任転嫁して現実逃避をしようとするロクデナシさ。きみがパンがないならお菓子って言葉、僕はもっともだと思うぜ」

 とのことである。要は、そう思いたい奴はそう思っておけばいい。だが、そう思っていた所でマリーが民を愛する事には変わりないと言う事だ。裏を返せば、マリーの笑みを何よりの幸せにしている民も一定数居ると言う事になるのだから。

「ねえムッシュ、あのね」

 静かにティーカップをソーサーに置くと、マリーはフランスへ声を掛ける。フランスは、真理の航海から無事帰って来たようで、マリーの方へ向き直った。

 マリーがフランスに恋をしたのではない。フランスがマリーに恋をしたのだ。嗚呼、ならば、ならば今尚も恋をしていてほしい。マリーは切にそう思っていた。

「私ね、ギロチン・ブレイカーなの」

 唯のマリーとして、またフランスと言う国に恋をして貰いたい。いついかなる時もVive La France(フランス万歳)と言いたい。太陽が昇っている内に沢山お菓子を食べたり話がしたい。太陽が沈んだ夜は、ダンスを月に披露したい。ギロチンの無い世界で、フランスに居たマリーになりたい。

「だから、ギロチンなんてもうないの。あの時代の事はとっくに気にしていません」

 微笑む。本当は息子に対する事でおびただしい程の負の感情を孕んでいるが、自分に対しての事ならばもう良いのだ。
 フランスは一度目を伏せて、それから眉を下げて笑った。仕方ない人だねと、幸せそうに困っているように見える。

「じゃあ、今は何がしたい?我儘で可愛いギロチン・ブレイカーさん」
「もうすぐ日が暮れるし…踊りましょう?ムッシュ、貴方はどんなダンスがお得意かしら!」

憧れの騎士→←あなたと踊りたくなりまして



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作者名:左目から鯖味噌 | 作成日時:2018年4月28日 11時

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