世界の中心で真名を告げる (ページ2)

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あなたと踊りたくなりましてページ2

英霊になりまして、第二の人生にも似た暮らしを初めまして。あの頃と変わらず美しいままの国という恋人とお茶を楽しんでおりまして。
　マリーは終始にこにこと笑っていた。にもかかわらず、向かいの席でマリーを見つめるばかりのフランスは、ただただ笑みを引き攣らせるばかりであった。

　彼が何故心から笑ってはくれないのかを、マリーは既に分かっていた。だが、どうすれば彼がにっこりと笑ってくれるのかをマリーは知らないのであった。こういったことは自分より一つ年下の、変態的なクズ男の方がずっとずっと上手なのだから。マリーは早速助言を求めたくなって来てしまったが、これは自分と彼の問題なのだと決して誰かに問いを掛ける事はなかった。

　マリーとフランスの間にはいろいろあった。それはもう、たくさん。例えるならば上記で名こそ伏せど存在こそあげたとある男が作曲した数ほどに。

「御機嫌よう、ムッシュ。マリーよ」

　マリーがこの時代で第二を歩もうとしたとき、フランスへ初めて掛けた言葉がこれである。母が子を慈しむかのような、慈愛に満ちた柔らかな笑みと共に、あの時マリーはフランスの元へ現れた。

　あの時のフランスの表情と言ったら、言葉に出来ない。何しろ美しい彼を形容する言葉をどれだけ述べようと、全て月並みになってしまうのだ。
　それに、きっとあの時の、否今でも彼の目にはマリーの背後に高く高く聳え立つ正義の柱、ギロチンが見えているのに違いない。そんな彼が慎重に言葉を探して選んだ言葉が、

「マリー・アントワネット？道理で可愛いと思った」

　このような月並みのものであった。仕方が無い、フランスもマリーも、賛美すればするほどに言葉を月並みにしてしまうのだ。吟遊詩人ですら、二人をより美しくする言葉を紡げるかどうか怪しい。
　この言葉に幻滅をしただとか、気分を害しただとか、そんな感情は一切沸いてこなかった。泣いて喜んで欲しかったわけでも、オーバー過ぎる程のリアクションを求めていたわけでは無いのだから。だからこそなのであろうか、あの時のマリーはころころと笑った。

「ばかね、私たち」

　ティーカップを手にころりと笑ったマリーに、フランスは訳も分からずといった様子でゆっくりと首を傾げる。