子供３ ページ3
空き家の個室に一人。
お前は女だから部屋一つ分使っていいと、優遇されている。
本当は嫌だ、みんなと対等でいたいから。
けど、静かな部屋で作業出来るのは正直なところありがたい。
昔から勉学が好きだった。
それは松陽先生の影響もあるが、何か知って自分の知識になるのは楽しかったし、元から暗記するのは苦じゃなかった。
今も勉強の仕方や彼から教わったものを忘れたくないから、教科書は肌身離さず持っている。
ただ、今一番必要とされているのは、文字の読み方や数式の解き方ではない。
「戦略」だ。
小太郎兄さんに言われたことがある。
「Aは頭がキレる。少しでもこの軍が有利になる戦略を考えて欲しい」
歴史に刻まれた勝利へと導かれる戦略を多く学び、みんなで共有し負傷者を軽減させる。
私に出来ることは、それだった。
「単純に平行型がいいけど、今の私たちの軍勢じゃ勝ち目がない…やっぱり、しっかり練らないといけないよね」
ブツブツと一人で言葉に出しながら、筆を走らせる。
平行型。
一般的に多く用いられる、真正面から戦う形である。
横一直線に並び、平行したまま突っ走るものだ。
だか、相手が同じ戦力、もしくはそれ以上の力を持っている場合
軍勢が少ない私たちの負ける確率は、さらに高くなる。
しかし、今の人数で他の形をとった場合、単純に人が足りない。
…どうすれば。
「A？」
その時、障子の向こうから控えめな声が聞こえた。
夜遅いこんな時間に部屋に来るのは、あの男一人。
「いいよ入って、銀ちゃん」
返事をすればすぐに障子は開き、頬を赤く染めた銀ちゃんが立っていた。
…また呑んでる。
「まだやってたんだな」
ピシャンと障子を閉め、私の真正面に胡座をかく。
お酒を飲んでいるはずなのに、彼からほのかに甘い匂いが漂う。
この匂い、好きだなぁ…。
思わず筆を止め、目を瞑る。
「おーい、どしたー」
「んー…銀ちゃんちょっとこっち来て」
「お、おぉ…」
ゆっくり目を開け、隣に来るように畳をチョンチョンと指さす。
そそくさと右隣に来てくれたので、そのまま銀ちゃんの胸に頭から倒れた。
「ちょなんだよいきなり！」
照れたテンパった声。
素早く受け止めてくれて、焦ったのかそのまま私の背中に手を回す。
「あー…落ち着く」
笑ったつもり、だ。
けど、声は震えていて。
その異変に気づいた銀ちゃんは、回した腕にそっと力を込めて抱きしめてくれたのだった。
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作者名：お茶
| 作成日時：2019年11月8日 23時
