笑顔１０ ページ10
彼氏、か…。
章ちゃんは、彼氏じゃないんだよね。
ただの同居人であって、私の…その…。
知り合い？なんだろう。
私は、章ちゃんをただの同居人としてしか見てないのかな。
「Aさん？」
「あ、えっと…いないですね」
「お！俺も彼女いないんだよね。もう三十路手前なのにヤバいかな」
「あれ？佐藤先輩おいくつでしたっけ」
「２６歳だよ」
手前、じゃない気がするけど。
…もう、せっかくの佐藤先輩との食事会なのに、章ちゃんの事ばかり考えてる。
ダメダメ、話に集中しなきゃ。
その後も何となく話が進んでいき、食事会は終わった。
お会計は佐藤先輩が全額払ってくれて、もう何度も頭を下げる状態だ。
けど、優しく最後までエスコートしてくれて。
完璧すぎる彼に、やっぱりこの人はかっこいいと改めて思わされた。
「また連絡するな、じゃ」
駅まで送ってくれた彼は、颯爽と帰っていった。
遅くなっちゃったな。
時刻は午後１１時。
私はいつも疲れ果てて寝ている時間帯だ。
電車に揺られ、駅を走り、人気のない夜道を急いで帰った。
とにかく早く章ちゃんに会いたくて。
鍵を開けてもらうためメールをすると、すぐにドアが開いた。
「ただいま…」
いつもの章ちゃんなら、笑顔で迎えてくれるのに。
今日は腕を組んで、怒っている様子だった。
「しょ、章ちゃん…？」
「遅ない？迎え行こ思ったわ」
「ごめん…」
いつもより低い声で、正直怖い。
目を合わせることが出来なくて章ちゃんの足元を見ていると、影が目の前に現れた。
顔を上げればそこには章ちゃんがいて。
腕を掴まれリビングまで引っ張られた。
ソファに座らされ、章ちゃんは目の前に仁王立ち。
「男、女、どっち」
「え？」
「せやから、一緒におったのどっちや」
「会社の…男の先輩」
「ふーん、そうなんや」
聞いてきたのは章ちゃんでしょ？
何でそんなに冷たい態度とるの？
分かんないよ。
「何話したん」
「仕事のこと、とか…別に大したこと話してない」
「男女が二人で話すんやから、そんなもんやないやろ」
「なんで？信じてくれないの？」
「別に、その程度で終わるはずないって思っただけや」
…怖いよ、章ちゃん。
何でそんなに鋭い目付きなの。
だんだん訳が分からなくなってきて、私の目に涙が溜まる。
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作者名：お茶
| 作成日時：2018年8月6日 22時
