笑顔８ ページ8
「どうしたの、その指」
会社でのこと。
食費が浮くように手作り弁当を作り始めた。
章ちゃんにも同じメニューのお弁当を持たせて、いつも綺麗に空になって返ってくるのが嬉しかった。
そのお弁当を一人で食べている時、憧れであり少し好意を寄せていた佐藤先輩が私の指を見てそう言った。
これは料理で出来た傷ではない。
「…恥ずかしいんですけど、最近ギターを始めまして…皮がむけちゃうんです」
前まで、仮にギターを始めていたとしても絶対に口には出せなかったと思う。
でも、章ちゃんの元気とかパワーが移って、ちょっとは勇気を出せて話せる気がする。
手のひらを広げて指先を見せると、佐藤先輩は目を見開いた。
「へぇ、すげぇーな、Aさんギター弾くんだ」
「本当に、少しだけですけど」
ヘラっと笑って見せれば、何故か彼は頬を赤くした。
…？
「あ、あのさ」
「はい…？」
「Aさんの自然な笑った顔、いいと思う」
…へ？
「今まで無理したような笑顔しか見たことなかったから、すげぇ嬉しかった」
「あ、え、いや…そんな」
爽やかな笑顔でサラッとそんなこと言うんだから、びっくりしてしまった。
さ、佐藤先輩って、こんなに話す人なんだ…。
今までは遠目で見てて、かっこいいなとか、優しいなとかしか思わなかったけど。
話してみれば、こんなに明るい人だったんだ。
「よければ、今夜一緒に飲みに行かない？連絡してもいいかな」
「え！？あ、いやぁ…その今日は」
今日は章ちゃんが早めに帰れるって言ってたから、一緒に夜ご飯を食べれる。
だから私も早めに帰りたい…のだけれど。
そう思い、断ろうとした時。
横から女性社員の先輩、つまり私に嫌がらせをする清水先輩が割り込んできた。
「えぇ、飲み会ですかぁ！？いいないいな！私も行きたい〜！」
猫なで声を出し、佐藤先輩の腕に飛びつく。
そういえば、清水先輩すごい佐藤先輩の事気に入ってるような。
チラッと佐藤先輩を見れば、爽やかな笑顔を崩さないままでいた。
「うーん…けど、今日はAさんと話がしたくてさ」
「いいじゃないですかぁ、私がいても！ね！」
これ以上佐藤先輩を困らすわけにはいかない。
私は咄嗟にスマホの予定帳を佐藤先輩に見せて、笑ってみせた。
「予定ないので、二人で飲みたいです」
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作者名：お茶
| 作成日時：2018年8月6日 22時
