笑顔３５ ページ35
「あれ、先輩？」
「そうです」
会社の前で横山さんとラリーを続ける。
隣の方は、一切声を出そうとしないけど。
ついに私が我慢出来なくなり、帽子をかぶった彼の前に立つ。
「Aちゃん？どないしたん」
横山さんがそう声をかけたと同時に、帽子の彼は一歩下がる。
「変装してても渋谷さんですね」
ちょっと笑いながら、私は彼の帽子をとった。
ブスっとした顔の渋谷さんが顔を出した。
「取ったら渋谷すばるって分かってまうから、返してや」
冷たく言われたが、私は帽子を離さないでグッと力を入れる。
「風邪ひいてお世話になった時から、避けてませんか？私のこと」
そう言うと、渋谷さんはギグっと肩をあげた。
いつもメールをして連絡を取っていたのに、ぱったり無くなってしまった。
私からメールしても、無視。
せめて章ちゃんと付き合いました報告くらいしたかったのに。
彼は電話にも出てくれなかった。
隣の横山さんは笑ってる。
「勘弁してやってやAちゃん。こいつもこいつなりに考えとる事があんねん」
「っおい、横…」
考えてること？
私に関係するというのは、多分そう。
どういうことなのだろうか。
首を傾げて言葉を要求する。
すると、諦めたように渋谷さんは大きなため息をした。
「横、店開けてや。俺ん家はイタズラしてまうから」
「へいへい、じゃ、Aちゃん行きまっせ」
え。
急に歩き出す２人。
横山さんのお店ってことは、あのバー？
今日お休みだったんだよね、開けてくれるの？
というか、私もいくの？
戸惑っていると、歩いていた渋谷さんが戻ってきて。
私の手を強引に掴んだ。
「行くで」
引っ張られながら、私は彼の後ろを歩く。
終始無言で、結局来てしまった。
横山さんは鍵を開けるとすぐに奥の部屋へと行ってしまい、扉を閉める直前
「じゃ、話終わったら呼んでな」
と言って、部屋へ消えてしまった。
渋谷さんは、以前と同じ席に座る。
私はおずおずと、彼の真正面に腰を下ろした。
「やすは大切。やすが想う女も大切」
目がバチッと合い、急に話が始まった。
「やから、ちょっかい出したない。けど、本気で惚れとる。どないしたらええかな」
全く話の流れが分からない。
複雑な言葉並べられ、軽く混乱する。
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作者名：お茶
| 作成日時：2018年8月6日 22時
