笑顔２７ ページ27
〜Aside〜
…見知らぬ天井、かと思ったけど。
どこかで見たことあるような。
急に入ってきた部屋の明かりは、一度見たことのあるものだった。
そして、冷たい水を持ってきてくれた人により、やっと解ける。
「風邪かもしれへんな、大丈夫か」
渋谷、さん。
そうだ、渋谷さんとバーにいて、それで…。
女の人にカクテルかけられて、いやそれは渋谷さんで。
あ、だからシャワー浴びたのかな、髪から水が滴り落ちている。
ということは、ここは渋谷さんの家で。
わざわざ私を運んでくれたのかな。
「ありがとうございます」
私はコップを受け取ると、少しずつ飲んだ。
その後、お粥まで作ってくれて、私に食べさせてくれた。
コンビニ走って冷えピタとか、スポーツドリンクまで買ってきてくれて。
どうしよう、いたれりつくせりだ。
少し落ち着いてきた頃、渋谷さんが私が横たわるベッドのそばに腰を下ろした。
「なぁ、やすに電話せんでくれる？」
上目遣いで、か弱い声で。
「どうしてですか…？」
「その服、俺のために着て来てくれたん？」
「渋谷さん、話がちが」
「この前の服と全然ちゃうから、ちょっと期待してもうてん」
「章ちゃんに連絡したい、です」
ポケットに入っているスマホを取り出そうとすると、渋谷さんは立ち上がった。
そして、私の手首を掴む。
「あかん…今日だけや、ほんま。今日だけ」
こんなに焦ってる渋谷さん、初めてだ。
目は潤み、揺れている。
綺麗な、瞳。
吸い込まれそうになる。
渋谷さんの前髪から雫が落下し、私の頬に落ちる。
「ちょっと、話しせん？俺の昔話」
「昔話、ですか…？」
「おん、Aちゃんだけに聞かせたいんやけど」
弱々しく、小さな子に戻ったような声で。
震えた手で。
私を繋ぎ止めるかのように。
なぜか、その時の私は。
コクリと頷いてしまった。
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作者名：お茶
| 作成日時：2018年8月6日 22時
