笑顔１３ ページ13
「こっち来なさいよ」
表向きとは全く違うドスの効いた声で、私を呼び寄せる。
近くに行けば顔に煙を吐かれて、私はゴホゴホとむせ返った。
「あんたさ、最近調子乗ってるよね」
「…な、何でですか…私、真面目に仕事して」
「いーねー、成績いい子は可愛がられて。で何、今度は佐藤さんにチヤホヤされたいって感じ？」
やっぱり。
先輩は佐藤先輩の事が好きだ。
分かりやすいアプローチを何度も見た。
私が差し入れを渡すのが気に食わなかったんだろう。
それに、食事にも行ってしまったし。
「鬱陶しい。うざい。ほんとムカつく」
靴に灰を落とされる。
…買い換えなきゃ、かも。
ボーッとそんなことを考えていると、髪を掴まれた。
痛い…。離して…。
「今後、佐藤さんに近寄らないで。分かった？」
「わ、かり、ました」
消えそうな声で言えば、乱暴に手を離してくれた。
私は荷物をとってすぐに会社を出た。
なんで私って、こんなに弱いの。
一言、言えばいいのに。
あなたが嫌いなんですって、言っちゃえばいいのに。
もう、本当にやだ…。
情けない自分に嫌気がさして、涙が出そうになる。
私はグッと堪えて、すぐに家に帰った。
「ただいま」
ドアを開けると、いつもの「おかえり」が返ってこない。
不思議に思いそっとリビングに行くと、章ちゃんは誰かと電話しているみたいだった。
「そうなん？それやったら家行くわ〜」
…相手、誰だろう。
「ごめんな、あの時は…あれやねん、誤解やって」
誤解？
嫌な予感しかしない。
ねぇ、章ちゃん。
もしかして、相手は元カノさん？
喧嘩の原因は元々、元カノさんの誤解。
家に行くの？復縁、しちゃうのかな。
そしたらもうこの家には、いられないのかな。
グワッと色々な不安が押し寄せてきた。
いてもたってもいられなくなり、私は電話中の章ちゃんに飛びついていた。
「わわっ、ごめん、また後でかけるわ！」
そう早口に言って電話を切り、私の頭をゆっくり撫でる。
「どうしたん？A…嫌なことでもあったん？」
…嫌なこと、ありました。
けど、それは清水先輩の嫌がらせより嫌なこと。
なんでだろう。
別に、彼氏じゃないのに。
何でこんなに、苦しいんだろう。
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作者名：お茶
| 作成日時：2018年8月6日 22時
