笑顔２ ページ2
「もう…何もしたくない」
独り言を口にこぼしながら、仕事帰り夜道を歩く。
街灯は寂しく灯り、冷たい夜風は肌を撫でる。
これだけ静かな環境だったら、よかったのに。
そしたら私も静かに仕事が出来る…。
あ、あれ？
そこで、私はあるものを見つける。
見えたのは、黒く大きな影。
私のアパートの前に、誰かいる。
…こ、怖い。
あの人、何してるの。
アパート入口の塀に背中を付け、膝を抱えて顔を埋めている。
体格は細身だけど肩幅は私より広く、服装と体格から男性と予測したけど。
…ホームレス？
ゆっくり、音を立てないように目の前を通り過ぎてみる。
チラッと横目で見ると、お酒の匂いがした。
ただの酔っぱらい…かな。
このままアパートの前で放置するのは、いかんせんどうなのか。
これは、声をかけるべきか…。
明日の朝までいられたら困る。
そうだ、そうだよね。困るよね。
私は自分に言い聞かせながら、勇気を振り絞って一歩踏み出した。
「あ、あの…」
返事はない。
体もピクリとも動かない。
私はもう一歩近づき、肩を何回か優しく叩いてみた。
すると、その男性はピクっと反応し、ゆっくりと顔を上げる。
……え。
も、モデルさん？
すごい整ってる、この人…。
くっきり二重で、ぽってりとした唇。
綺麗に整えられた眉毛に、スッとした鼻筋。
街灯に照らされた髪は金色に染められていて、目は透き通ったブラウンだ。
何歳、なのかな。
歳は近いように感じるけど。
２３歳になった私と同じか、それより下に見える。
「…す、すいません…どなたでしょうか」
放たれた声に、ドキッとした。
少しお酒のせいか掠れているが、高くて柔らかくて優しい声。
可愛い、という言葉の方が似合っているかもしれない。
なまりの入っている話し方、関西の人かな？
「ここ、アパートの前でして。飲まれてますよね？ここで寝てらしたんですよ」
私のアパートの前、とは言いたくなかった。
正直、見た目は良くても素性のしれない男に住んでいる場所を知られたくない。
「そ、うですか…」
男は力なくそう言うと、分かりやすく落ち込んだ表情を見せた。
いやいや、そうですかって…。
「ご自宅まで一緒に行きましょうか？タクシー呼びます？」
ここまで世話を焼くことはないと分かっているけど、このままは流石にまずい。
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作者名：お茶
| 作成日時：2018年8月6日 22時
