拗らせ王子と純情娘 １５ ページ15
「ほら、前に教えてくれたやないですか。雨も悪いものじゃないって。やからこの通り雨も別に嫌な気分にならんかったな」
窓の外を眺めれば、先生も同じように雨を見つめた。
未だ強めに降り続ける雨を鬱陶しく憂鬱に思う人が大半だと思う。
しかし、その概念を変えてくれたのは紛れもなくA先生だった。
「ってことで、しっかりした大人は難しいんと思うんすよ。なので俺は優しい大人を目指します、A先生みたいな」
ニコッと笑いさっさと掃除用具を片付けに行く。
ガコガコ音を立てながらしまっていると、鼻をすする音が密かに聞こえた。
ドクリと胸が音を立てガッと振り向けば、顔を隠すようにそっぽを向いたA先生の姿がそこにはあって。
「先生…？」
「や、あの…、これは…」
先生のそばまで歩いていき、ゆっくりと手を伸ばす。
目元を覆っていた彼女の手に触れれば、密かに震えていた。
そっと手を握り優しく下ろせば、覗かせたのは瞳にいっぱいの涙を溜めたA先生だった。
な、泣いとる…？
「す、すいません、俺なんか」
「違うの！そ、その、嬉しくて…」
焦ってギュッと手を握ってしまった。
耳まで真っ赤に染めた先生は、優しく目を細め笑っていて。
初めて見た先生の知らない一面に、胸が急速に痛み出す。
「っふふ、やだほんとごめんなさい、ひゃーどうしよ」
目元を片手でパタパタと仰ぐ。
しかし次第に眉は八の字になっていき、上がっていた口角が下がり出す。
そんなA先生の行動が不安になり顔を覗くと、何か堪えるようにギュッと唇を強く噛み締めていた。
「施錠だけお願いできるかな、ほんとごめんね。気をつけて帰るんだよ」
困惑する俺の手を優しく解くと、早口で言ってのけた彼女は逃げるように行ってしまった。
一人呆然と立ち尽くす。
嬉し泣きと受け取っていいのか分からない。
最後、あんな苦しそうな顔して嬉し泣きはないはずだ。
…何を抱えているのだろうか。
何を隠し、何に泣いたのだろうか。
普段からは想像できない先生の寂しげな表情が、頭から離れることは無かった。
「ショッピー、待たせた…ショッピ？」
しとしとと弱くなった雨にふと目を向ける。
隣に来たチーノが不思議そうに俺を見たが、同じように外を見た。
「雨降ってきてもうたけど、やんでよかったな〜」
雨雲は去り、太陽が顔を覗かせている。
あれだけ激しく鳴っていた雨音が、まだ密かに残っているような気がした。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 615人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
てきとーさん - チヨちゃぁん……チヨちゃんっ！幸せになってくれ… (2021年1月21日 7時) (
レス) id: 2e24d3a77d (このIDを非表示/違反報告)
お茶(プロフ) - みかげさん» わぁありがとうございます！！泣 チヨちゃん可愛いですよね！？(？) (2020年9月7日 23時) (レス) id: 439e2c470d (このIDを非表示/違反報告)
みかげ(プロフ) - 完結おめでとうございます……！！shp君……君イケメンすぎん！？ってかチヨちゃんかわ……チーノさん羨まし(殴)めちゃめちゃおもろかったです！！ありがとうございました！ (2020年9月7日 17時) (レス) id: 946825ef56 (このIDを非表示/違反報告)
お茶(プロフ) - 粉みるく。さん» ちょっと見たいというコメを見たので、、、！ (2020年7月13日 23時) (レス) id: 7f31983ff2 (このIDを非表示/違反報告)
粉みるく。(プロフ) - ば、番外編…w わーいチヨちゃんだぁぁぁぁ！ (2020年7月13日 23時) (レス) id: 091f5a802b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：お茶
| 作成日時：2020年5月20日 1時
