4.意味 ページ6
名には、力が在る。
名には、魂が宿る。
守護、束縛、命令、洗脳、伝達、記憶…名は、持つ者が定めた価値によって役割が違う。
「俺にとって名は契約の証だ」
真名を契約者にのみに預け、その者より名を貰う。それにより、俺は契約者の所有物となる。
細かな事柄をかいつまんで話せば、神父は呆けたような顔で紅茶を口に含み、そして…
「……って、お前、それ俺に話して良いのかよ!」
盛大に吹き出した。
「構わない。其処の性悪も知っている事だからな」
ソファの肘掛けに頬杖をつけば、行儀が悪いと横から声が飛ぶ。
「黙れ。……それにな、神父。契約は双方が同意の上で無ければ成立しない。恐らく貴様はコレと俺が契約関係にあると考えているのだろうが…まあ、有り得んな」
そう言いながら空になった袋をクルクルと丸めて少し離れたゴミ箱に放れば、スコンと音をたてて吸い込まれた。
「お見事。……それについては彼の言葉通り。私と彼は単なる友人です。現に今まで私は一度も彼の名を口にはしていませんからね」
「……友人ではないが、そういう事だ」
溜め息を吐いて残ったストローを手の中で弄んでいれば、向かいから伸びて来た手に取り上げられる。何かと見れば、やけに真剣な面持ちの神父が此方を見ていた。
出会って会話をしてまだ僅かばかりの時間しか過ごしていないが、この男は他の祓魔師とは何処か違う。直感的な感覚はあまり信用していないのだが、メフィストが友人だと言う者だと考えれば、その勘に頼ってみるのも妥当なのではと思える、何とも不思議な男。
「どうかしましたか。藤本神父」
「俺もお前…いや、お前らに聞きたい事がある」
「…なんです?」
曰く、数ヵ月前のある日。
バチカンの本部の地下から、厳重な封印を施されたある"物"が盗まれたとの事。
百年程前より其処にあったそれは、並大抵の悪魔や祓魔師では解けないような強力な封印によって、一切の干渉が禁じられていたという。騎士団の上級祓魔師以上の権限が無ければその存在すら知らされる事は無く、盗み出した犯人は騎士団内の上層部に居るとされているらしかった。
「俺、だな。それは」
「ええ。恐らく」
「…どういう事だ」
眉間に眉を寄せて問う神父は、いつの間にか此方に銃を向けていた。それは、返答によっては討伐をもいとわないという事の表れだろう。
銃口から感じる僅かな魔力の流れは、祓魔に連なる者のそれであった。
「おやぁ?其処まで分かっていてこの話題を切り出したのでは?」
煽るように言葉を投げる奴は、この状況を楽しむかのように静かに紅茶を喉へ落とした。
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碧石杜@奈良定(プロフ) - ありがとうございます。 (2017年2月5日 10時) (レス) id: 99d14ccf5f (このIDを非表示/違反報告)
Dhian(プロフ) - 凄くカッコイイ話です。続き楽しみにしてます (2017年2月5日 9時) (レス) id: d3419f40dd (このIDを非表示/違反報告)
碧石杜@奈良定(プロフ) - やまださん» ありがとうございます (2017年2月2日 20時) (レス) id: 99d14ccf5f (このIDを非表示/違反報告)
やまだ - 更新頑張って下さい! (2017年2月2日 19時) (レス) id: c225b78ce7 (このIDを非表示/違反報告)
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