past3.種火 ページ14
身を焼く炎は怒り。
舌を切り裂いたのは憎しみ。
四肢を縛るのは記憶。
囚われた己を知るのは己のみ。…ああ、なんと愚かな。
「…あんなに毎日お祈りしたのに、神さまは助けてくれないんだね」
広場の隅。
胸の辺りに杭を打ち込まれ、ゴミのように捨て置かれた燃えカスに向けて発されたその言葉に感情は無かった。
悲しみも怒りも後悔も唯一つ無く、クレイスは自分自身への虚しさを胸の奥へと押し込め、ただ淡々と亡骸たちを見詰める。
「僕には、最初から何も無かったんだ。名前も帰る場所も無い。……ねえ、シスター」
ーーーー"僕"という存在を教えてくれてありがとう。
何もかもを失い、壊れてしまった少年。
憎むでも蔑むでも無く、ただ微笑むその姿を気味悪く思う者は居ても、肩に手を添えてやろうという者は居なかった。
礼服の集団は次の日には村から消えてしまっていたが、彼らの残した残り火は燻り続けていた。もしかすれば、彼の村は外から火を付けられなくとも自分たちでそれを起こし、自ら身を落としたのかもしれない。
そう思わせる程に、村は何処か歪だった。
ーーーー「探せ!まだ近くに居る筈だ!!」
ーーーー「魔女の子を逃がすな!」
ーーーー「ああ、厭だ。なんだってあんなのが…」
走る。走る。走る。
森を駆けるクレイスは、ただひたすらに絶望していた。
人は、此処まで醜かったか。愚かだったか。
此処まで、欲深い生き物であったのかと。
「…これが、人間の本性だ」
教会が灰となった後、村は次の標的をクレイスに変えた。
疫病、凶作、時には殺人。村で起こる全ての厄を"魔女の子"の呪いとして彼の存在と結び付け、理不尽な暴力と侮蔑を浴びせる。言わせてみれば、生贄と同等のそれだった。
しかし、八年。
常人、しかも幼い少年ならば気が狂うような時間を彼は耐えた。一概に彼の強さだったのか、それとも既に狂ってしまっていたのか…どちらにせよ、クレイスは短いとは言えない時を苦痛の中で過ごした。
何も信じず、一筋の希望も見えず、ただただ耐えに耐え抜いたクレイスに待っていたのは、やはり彼の望んだ幸せには程遠い物。
ーーーー「何処へ消えた!? クソッ!餓鬼が…」
太い木の影に隠れながら、通り過ぎて行く村人の気配に恐怖する。
ーーーー嫌だ…嫌だ、嫌だ嫌だいやだ…!
理不尽に殴られるのも。
焼けた鉄を押し付けられるのも。
何度も水に沈められるのも。
食事を与えられずに飢えるのも。
それらの痛みを、熱さを、苦しみを思い出すだけでどうしようも無い吐き気が込み上げる。
「……醜い」
肉人形たちは種火に薪と油をくべる。
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碧石杜@奈良定(プロフ) - ありがとうございます。 (2017年2月5日 10時) (レス) id: 99d14ccf5f (このIDを非表示/違反報告)
Dhian(プロフ) - 凄くカッコイイ話です。続き楽しみにしてます (2017年2月5日 9時) (レス) id: d3419f40dd (このIDを非表示/違反報告)
碧石杜@奈良定(プロフ) - やまださん» ありがとうございます (2017年2月2日 20時) (レス) id: 99d14ccf5f (このIDを非表示/違反報告)
やまだ - 更新頑張って下さい! (2017年2月2日 19時) (レス) id: c225b78ce7 (このIDを非表示/違反報告)
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