【青の祓魔師】名も知れぬ蝙蝠【男主】 (ページ17)

今日:8 hit、昨日:1 hit、合計:29,768 hit

past6.理解者ページ17

男に手を引かれ着いた先は、村から離れた森の中にある城のような館だった。
こんな所にこんなものあっただろうかと首を傾げるクレイスを尻目に、男は城の扉を開く。ひょっとするとこの人は貴族なのだろうか、こんな大きな邸なんて普通の商人なんかでは建てられない。
「さて、まず風呂だな」
男はクレイスを自室であろう部屋へ通すと、開口一番そう言った。
「…え」
「なんだ、そんなボロ雑巾みてぇなナリでいつまでもいる気か？そんなんじゃ女に嫌われるぞ」
「いえ、でも…そこまでして頂くのは……」
長年の半奴隷生活のせいか、申し訳なさそうに眉をハの字にして遠慮するクレイスに、何を思ったのか男はハッとした顔をした。
「はっはーん、入り方が分からねぇんだな?よし!なら、俺がいれてやる」
「!?…い、いや、大丈夫です!自分で入れます!!」
男の言葉にブンブンと激しく首を横に振り、クレイスは慌ててそう返す。
「そーか。ああでも、その汚ねぇボロはとっぱらってけよ、捨てといてやるから」
と言って男はクレイスの纏う土汚れの着いた服に手を掛け、思い切り前を開いた。
「へ？」
ブチィィッと無惨に弾け飛んだシャツのボタンたち。ポカンとしていると、続いて下に手を掛けられる。
「ちょっ、あの、自分で!自分で脱げますから!!」
「んん?ああ、そうか、悪い。ガキっつっても赤ん坊じゃあるまいしな。いいぜ、此処で脱いでけ」
「いえ、あの、」
「?…どうした?」
不思議そうな顔をしてこちらを見る男に、クレイスは激しく動揺していた。

──ここで?ここで脱ぐのか!?貴族って皆こんななのか!?というか、凄く見られてる…少し、恥ずかしい気が……うぅ…

…あーもう!儘よ!!
俯き真っ赤な顔で身に纏う物を脱いでいく様子に、男の口の端がゆっくりと楽しげに吊り上がってゆくのをクレイスは気付かない。羞恥心に染まった頭は一々相手の反応を気にする余裕などとんと無い。
そして、靴とズボンを脱ぎ終えたクレイスに残されたのが下着のみとなった所で、男が口を開いた。
「しかしまあ酷いもんだ。腹の辺りなんざ特に痛むだろう。打撲もだが火傷の跡もかなり有る、肋骨なんざ何本か折れてそうだな。これでよく今まで生きてこられた」
辛かったろう、頑張ったな。
男の腕がクレイスの方へ伸び、壊れ物に触れるように優しく頭を撫でる。

頑張った。そうだよシスター。僕頑張ったんだ。だからね、もっと、

「もっと、ほめて…」

口に出すと、腹の底に溜まっていた何か重たいものが軽くなった気がして、それからクレイスは幼い子供のように泣いた。