【ツイステ】なぁ聞いたか？？...ＮＲＣには、廊下を爆走するオネエがいるらしい【男主】

◆PROLOGUE−３２◆ ページ37

腕を無くした人が無くした腕に痛みを覚える幻肢痛のように。
...目の前にピアノはないのに、指が勝手に動こうとすることがある。



でも、私はもうピアノは弾かない。



もう......弾けない。



大好きな、大好きだった大切なピアノ。
嫌いになってしまったら、私の中の何かが壊れてしまう気がするから。





それなのに、未だ手入れを続けている自分の手を見つめて未練がましいなぁと苦笑いを零す。
前世から続く私の癖。
最早強迫観念みたいなものなのかな......生まれ変わってもピアノに縛られ続けるなんて馬鹿みたいだ、と自嘲する私の手が、そっと引き寄せられるのを目で追った。

私の手を掴んで、優しく握りしめる華奢なのに温かな女の子の手。
静かに、それでいて力強く耳朶に響く「そんなわけない」という言葉が...何処か虚しく感じるのは前世の私が、それほどまでに自分に自信を持たない、つまらない人間だったからなのだろう。



ユウ「......私、桃原 鈴さんの一個下なんですけど........隣の中学の三年生には、世界のプロと肩を並べて戦える凄いピアニストがいるんだって...両親がニュースを見ながら楽しそうに話しているのを聞いたことがあります。両親とも昔から音楽に目がなくてですね、桃原さんのコンクールを見に行ったこともあるんですよ！

　 私は......その時はピアノに興味がなくて、ついてはいかなかったけど」



...握りしめられた手が熱い。
じわ、じわ。心の奥の奥の方が、ゆっくりと温められていくような感覚にだんだん頭がぼうっとしてくる。
誰かにこんなふうに手を握られたのは、前世でも今世でも、今回が初めての経験だ。

なんだか、酷く力が抜ける。
ほっとしてる...？手を握られているだけで？
じわじわ。温くて、このままずっと手を取っていたい気分だ。



ユウ「桃原さん、隣の××中学で演奏会を開いてくれたことがありますよね？勿論私も演奏を聞いてました！！って言っても事情があって...実際に講堂で演奏している姿を見たわけじゃないんですけどね。

　 .........私、凄く感動したんです。まるで何気ない散歩の途中で、素晴らしい景色を見つけたような...一瞬の、でも永遠に消えない思い出を脳裏に焼き付けられたような心地でした。

　 歌詞のない音楽があんなに胸に響くなんて、あの時初めて知りました...！音楽の知識なんてない私が言うのは変かもしれないけど、確かに桃原さんは天才です。世界が貴方を認めたんだから、間違いないですよ！」

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