補色れんしゅう帳。（in×ar短編集）

＊ ページ10

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えっ？？何？？

何、今の？？



「大ちゃん、可愛い。」


…えっ？？

おれが…、可愛い？？




いのちゃんの綺麗な白い指がおれの頬を優しく撫でた。
あまりにも自然なその動きに、驚きを隠せず目を丸くした。


そんなおれを見て、いのちゃんのぽってりとした唇が
また『可愛い』って動いた。



どうしよう。
なんかおかしい。


なんだか胸が、バクバクする。


病気かな？？
心臓が悪いのかな？？


そうこうしている考えている間に、いのちゃんの『可愛い』と動いた唇が
どんどんとおれに近づいてくる。






近づいてくる…

えっ？？…近づいてくる？？


えっ？？

…えぇ！！！！








「大貴ぃ〜！！いい加減帰ってきなさい！！」

ガラガラと勢いよく扉が開く音がして、
いつものように母ちゃんの怒鳴り声が響いた。




「は…は〜い！！」

勢いよく返事と同時に立ち上がると
目の前で止まったいのちゃんの唇から、今度聞こえたのは「ッチ、」という舌打ち。



そうそう。初めに紹介していなかったけれど、
こんな可愛らしい顔をしているくせに、いのちゃんは性格がすこぶる悪い。




「じゃ、…じゃぁ、ちゃん、また明日。」

後ずさるようにいのちゃんから距離を取り、焦りながら荷物をまとめようとするのに
急ぎすぎたせいかスマフォを落としたり、ノートを落としたりして中々片付けられない。

ボトボトとおれが落とす荷物をいのちゃんはクスクスと笑いながらおれに渡してくれる。




「もう、大ちゃん、焦りすぎー。かわいい〜。」


なんだそのバカにしたか『可愛い』は…。

光ちゃんに使う『可愛い』とは全く違うではないか。


苛立ちが顔に出ていたのだろうか。
いのちゃんはうつむき気味で低くなっていたおれの頭を優しくポンポンと撫でた。


「大丈夫だよ、大ちゃん。そんなに焦らなくても。
　まだまだ、時間はたっぷりあるから。」




そうそう。
もう一つ言うのを忘れていたことがある。

いのちゃんは頭がいい。
だから、時々、こんな風によくわからないとても難しいことを言う。


そんな時、決まっておれはわかったふりをしてしまうのだ。



「お…おう。」

俺がどもりながら返事をすると、おれより少しだけ背の高いいのちゃんの笑い声が上から聞こえた。


このわかったふりは、大体いつも感づかれている。


いのちゃんが一枚も二枚も上な気がして、
なんだか、癪に触った。


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