補色れんしゅう帳。（in×ar短編集）

＊ ページ15

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ピッタリとくっついた体からシャツの上からダイレクトに熱が伝る。

暑くて暑くて。
どうにかなりそう。

これは、酷暑のせいなんかじゃない。


いのちゃんの、せいだ。




その熱を、もっと感じたくなって、回した腕の力を強くした。


そもそも、これが間違いだったのかな。






「だいちゃん？？…いいの？？」

なんかよくわかんないけど、うんって言わないとダメな気がして。
雑にコクコクと縦に動かした首。

あまりの勢いに、いのちゃんの肩に乱暴に俺のおでこが当たって。
いのちゃんは、それでやっと、いつもみたいに笑った。


距離がゼロなせいか、それとも感覚が鋭くなっていたせいか
雨音にかき消されることなく、その笑い声は俺の右耳に聞こえた。



「じゃ、

　もう一回ね。」



優しく囁くように、何かを試されるように言われた言葉。



もう一回？？

それって…？？







返事を返す前に、再度、塞がれた唇。

壁に押さえつけられ、自由を奪われた体。




冷たい。




背中に伝わるコンクリートの冷たさが、
体を凍らせてしまったみたいに動けない。



食われそうなほどに覆われ、息もできないほどに好き勝手口の中をかき乱され、
初めての感覚に腰が砕けて力が抜けて。

壁越しにズルズルとへたり込んだ。



べちゃりと濡れた地面に手をついた。

制服がだんだんと湿っていくのがわかった。



それでもいのちゃんはやめてくれなくて。



シャツの中に、夏とは思えないほど、冷えたいのちゃんの掌が入って来て。

何にも見えないようにギュッと目を瞑った。





ゴーっという音が上を通過していく。


その音に集中した。



今、自分に起こっていることをわかりたくなくて。



それでも、その音が、電車なのか、雨なのか、それとも雷なのかさえ、
その時にはもう何も判断できなくて。







ー『いいの？？』



いいかどうかなんて、今もわかんないや。
それでも。




あの時の俺には、

これ以外の選択肢が見当たらなかったんだ。






end

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