. ページ34
.
暫くその男を見守った真島は、Aに目線を移した。
「大丈夫やったか？」
そう心配の声をかけるが、返事はない。
よく見ると、膝の上で組まれたAの手は微かに震えていた。
「Aちゃん、ちょっと休憩いれよか」
怯える彼女の肩を優しく抱き、なんとか立たせる。
そして、キャストや客の注目を浴びながら、真島とAは控え室へと消えていった＿＿＿＿＿
騒がしい店内とはうってかわり、秒針の音だけが鳴り響く控え室。
事務作業の為に作られた簡素な作りが、逆に二人を落ち着かせた。
「大変やったな。茶でも飲んで落ち着き……」
真島が給湯器のある場所に向かった時、後ろから「ドサッ」という音が聞こえ驚いて顔を向ける。
そこには、力が抜け、膝から崩れ落ちるAの姿があった。
『こわ、かった……』
力なく吐露すると共に、今まで我慢していたのか、目からは大粒の涙が溢れ出す。
真島もこれには驚いて、慌ててAの元へと向かった。
Aと目線を合わせるようにしゃがみ込み、子供をあやす様に頭を優しく撫でる。
「Aちゃんは全部抱え込みすぎや。怖かったなら大声出して助け求めたらええ。それとも、俺はそないに頼りないか？」
責め立ててしまわないように、柔らかな口調で真島は尋ねる。
涙で声が出ないAは、『そんなことない』と首を横に大きく振った。
余程怖かったのか、Aの涙はなかなか止まらなかった。
そんなAの涙を時折拭ってやりながら、真島は先程の自分の行動に疑問を感じていた。
"何故あの男を追い払うような真似をしてしまったのか"、と。
悪質ではあったとはいえ、あの客も店に金を落とす客の一部だ。
死ぬ気で一億円という大金を稼ぐには、客一人の微小な金でさえ真島には必要だった。
それに、見せしめのような追い払い方で他の客にも迷惑を掛けたはずだ。
もう少し冷静に考えれば、誰も損をしない穏便なやり方があったはずなのに……
(ま、Aちゃんの身の安全が第一やな……)
暫く考え込んだ真島は、途中で思考を放棄した。
Aを守れたのだから、あれが最善の策だったのだろうと、そう結論づけて。
これ以上考えた先にあった"本当の答え"から目をそらすように、真島は考えることをやめた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 85人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
なぬ - 面白い (2022年3月29日 16時) (
レス) id: 9f70a28778 (このIDを非表示/違反報告)
kokurou6(プロフ) - Twitterフォローさせていただきました。よろしければ承認お願いします。 (2021年2月7日 16時) (レス) id: f57eb3d90a (このIDを非表示/違反報告)
★レイナ☆(プロフ) - ツイッターフォロー申請させて頂きました！ (2021年2月4日 11時) (レス) id: 62f57f1f40 (このIDを非表示/違反報告)
エコノハァー(プロフ) - 雲雀さん» はい、やべぇ所の作者です…。ハチャメチャな作品を読んでいただいて光栄です！ありがとうございますっ！(土下座) (2021年1月23日 13時) (レス) id: 0f751f239f (このIDを非表示/違反報告)
雲雀(プロフ) - エコノハァーさん» コメントありがとうございます〜！嬉しいです〜！あの、もしかして、「就職した先はやべぇ所でした」の作者様でいらっしゃいますか……？私もエコノハァーさんの作品楽しく読ませていただいております！！ (2021年1月22日 23時) (レス) id: 22260f8f2e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：雲雀 | 作成日時：2020年12月27日 14時
