207話 ページ14
人見蔭刀はある城の城主で、『若』と呼ばれる地位にあった。
少し疲れたので休憩させてほしいと、たまったま寄ったところが蔭刀の城だった。
蔭刀は病気がちで、殆ど枕から頭が上がる日はなかったという。
それは妖怪のせいなのではないか、と疑い始めた家臣たちが、Aを殺そうとしたのだ。
それを庇ったのが、蔭刀だった。
その時を境に、少しずつ陰刀の具合はよくなっていった。
蔭刀の傍にずっといたAは具合がよくなっていった様子をすべて見ていた。
気が付くと、1日だけ滞在するつもりが、5日ほど滞在してしまっていた。
城を出ていくと伝えた時、蔭刀はずっとそばにいてほしい、と言った。
だがAは、それを断った。
『自分には、もう心に決めた人がいる』と。
それを伝えた時の蔭刀の悲しそうに微笑んだ顔と、一瞬見たとても悲しそうな顔は、今まで忘れたことはなかった。
出会った時期が悪すぎたのだ。
蛮骨たちと会う前に出会っていれば、迷わずに蔭刀を選んだろう。
(それが今じゃ、こんなことになっちゃってるんだもんなぁ)
Aはもう一度、奈落をきつく睨んだ。
「性格良し、顔良し、地位良しの蔭刀が、今じゃ性格最悪、顔良し、地位は……」
「そのままだ」
「性格最悪になっただけかよ。蔭刀を返せ」
どうして蔭刀が選ばれたのかはわからないが、何にせよこんなことに使われるなんて蔭刀が可哀想だ。
しかし、顔が蔭刀のせいか、黙っていれば男前。
互いの息がかかるほど近くにいるせいか、Aは耐え切れなくなりそっぽを向いた。
しかし奈落はそれを許さず、もう一度自分の方に顔を向けさせた。
「どうやら鬼蜘蛛は桔梗を慕い、この奈落はA、お前を慕っているようだな」
「何故疑問形なのか教えてほしいわ」
Aの声は冷静だったが、顔には焦りが見え始め、実際奈落から逃れようと必死だった。
なのに何かに体が押さえつけられてるように、動かない。
(クッソ……何するつもりだよ)
「一度でいいからしてみたいことがあってな」
「あ？」
気が付くと、奈落の顔がすぐ目の前にあった。
「な――」
言い終わる前に、唇が重なった。
「ッ！」
Aと奈落の口の中に鉄の味が広がる。
Aは、口の中に入ってきた血を、ペッと吐き出した。
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桜餅(プロフ) - にんじんさん» 会うと別れがつらくなる、ということであまり絡ませられませんでしたけど、如何でしたでしょうか？ (2017年8月14日 9時) (
レス) id: 4f9d801cbe (このIDを非表示/違反報告)
にんじん - 蛮骨うぅぅぅぅぅぅぅぅぅ！！ (2017年8月14日 8時) (レス) id: 1018656ff9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：桜餅 | 作成日時：2017年8月8日 20時
