虚ろな想い ページ10
「キリがいいのでお昼行きますね」
「あア、行ってラっしゃイな」
階段を歩きながら、何を食べようかぼんやり考える。今日は、久々に食堂に行こうか。
食堂は空いていて、人がまばらだった。券売機でジェノベーゼの券を買い、出来上がるのを待つ。案外、すぐに出てきたが。
誰もいないテーブルに腰かけ、フォークで麺を絡めとり頬張ると、バジルの爽やかな香りが口の中に広がる。
広がるが…… あんまり美味しくない。パスタは私の大好物で、ここのジェノベーゼは美味しいのに。
さっさとパスタを平らげ、皿を片付ける。時計を見ると、まだ時間はあったので、いつもの中庭に行き、ベンチに腰かける。
中庭は、日陰になっているためか人が少なく、穴場なのだ。
──が、向かいの棟の四階で、隊長の姿が見えた。
思わず立ち上がり、見つめた。だが、隊長は後ろから駆けてきた明るい髪色の女に、声をかけられていた。
二人はしばらく何かを話し、女は、隊長と腕を組んだ。二人はその場から去った。
──あの女は、確か私の同僚だった。
美人と評判だけど、正確に難のあると噂のある女。
そうか、隊長は、あの人とは腕を組むのだ。
私とは、手も握れないけど。
玄関から見えない位置に移動し、玄関を見ていると、隊長と女は腕を組んだまま外に出た。これから、何処かに向かうのだろう。
心が、すうっと落ちていくような感覚を感じた。
二人が見えなくなると、ふらふらとした足取りで、再びベンチに腰かける。
ぼんやり空を眺めるけど、いつもより時間が長く感じる。美しい景色なのに、心が虚ろだ。
────もしや、隊長がいないからって、寂しいのだろうか。
そう思ったとき、素直に納得した。
ああ、私は、寂しいのか。約束すらしてないくせに、裏切られたような気持ちになっている。
上司と部下という、変われるはずのない関係。
でも、隊長と一緒に過ごす時間が不思議と楽しく、嬉しくて、さらに昨日のことで期待して、馬鹿みたい。
隊長だって男性だし、綺麗な女の人に声をかけられたら悪い気はしないだろう。
何だか、何もしてないのに負けた気持ちになる。
深くため息をつき、立ち上がる。ここにいるのが嫌になり、早めに地下室に戻ることにした。
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