緊張と虚ろな想い ページ9
「……た、隊長？」
「……！」
突然我に帰ったらしい隊長が、弾けるように握っていた手を離した。緊張してたくせに、わずかに名残惜しさを感じるなんて、変な私だ。
「すまない」
隊長はそれだけ言うと、階段を駆け上がって行ってしまった。呆然とするけど、そのままでいるわけにもいかず、扉を開け、お師匠らに挨拶をした。
手には、先程の熱がまだ残っていた。
「どうカしタの、A。なンか顔赤くなイ？」
「調薬したくて顔が赤くなりました」
「……オマエ、言イ訳下手スギルダロ」
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部屋に響く、目覚まし時計の音。リリリリリ、とやかましく、耳障りだ。
もうそんな時間なのか。まだ眠くてだるい体を起こし、音を止める。
昨夜は寝るとき、何度も手の熱の事を思いだし、なかなか寝付けなかった。
もう、認めるのしか無いのだろうか。
────私は、
だが、その先を考える前に、もう一度目覚まし時計が鳴った。……先程、電源を落とすのを忘れていたらしかった。
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「うんウん、いい感ジだね。あ、そコでさっキ磨リ潰したモノトリグサ入れテ」
「はい」
遂に、お師匠の指導の元、調薬を本格的に始めた。今作っているのは、全ての基礎となる軟膏。
これに他の薬草を足したりすることで、他の効用を持つ軟膏を作ることができる。
話は変わるが、以前、お師匠らに『何故悪魔や魔人の薬には、西洋医学ではなく東洋医学の方を取っているのか』と質問したことがある。
お師匠は、要約すると『悪魔は人間の噂から生まれるモノだから、科学的なものより薬草の方がよく効くのではないか』と言っていた。
魔人は、そんな悪魔の影響を受けてるから、人間としての西洋医学も効くが、薬草も効くらしい。
余談だが、グーフォは、『最近生マレタヤツラハソウデモナイゾ』なんて言っていた。
「よし、ジゃあ後は練っテ」
「はい」
ガラス棒で、ぐるぐると軟膏をかき混ぜる。薬の苦い匂いが鼻につくけど、よく効きそうな気さえする。
しばらくして、お師匠はそれを取り上げた。指にとり、観察し、匂いを嗅ぐ。
「うン、悪くなイね。初めテにしてハよくデきてるヨ」
「ほんとですか、良かった」
ふと時計を確認すると、針は12時を過ぎていた。……今日は、隊長は来ていない。
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