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ささやかな幸せ ページ8

私が孤立してしまったのは自分のせいだと考えたのだろうか、気づくと彼の目元にはピアスが増えていた。──また、自罰。

中庭のベンチに並んで腰かけ、私はサンドイッチケースを取り出した。隊長は…… 三段の重箱。やはり、男性なのでよく食べるのだな、と思う。

ああ見えて、料理が得意なジーノ管理官がいつも用意してくれるのだ、と言っていた。その時、隊長は、少し恥ずかしそうにはにかんでいた。

────その時、何故か胸が、締め付けられた。

「(……あれ?)」

まあ、一瞬だったので気のせいだと思うことにした。

手を拭いてから蓋を開け、ベーコンとレタスのサンドイッチを齧る。朝、自分で用意したものだ。

「……」

隊長が、重箱の小分けになっているひとつを差し出してきた。おかずを少し分けてくれるらしい。

ジーノ管理官の料理は確かに美味しいので、ありがたく頂くことにした。代わりに、私のサンドイッチを一つ渡す。

隊長は少し戸惑いながらも受け取り、食べる。

「……うまい」

「ありがとうございます」

しばらくして横を見ると、すでに昼食を終えた隊長の美しい翠玉の瞳は、ぼんやりと空を眺めている。

空ではなく、遠い、届かない何かを眺めているようにも見えるけれど。

二人で並んで、昼食に舌鼓をうつ時間。

特に会話もなく、黙々と食べ、終わればぼんやり空を眺める。

それが、最近のささやかな楽しみだ。

調薬について学ぶのも楽しいけれど、それとはまた違った楽しさ。

────楽しいと思えることが出来て良かった。

しばらくして、隊長は立ち上がった。そろそろ、戻る時間なのだろう。私も腰をあげ、歩き始める。

やはり、会話はない。でも、不思議と満たされた時間。

もう少しだけ一緒にいれたら、という考えが頭に浮かんだ。だけど、かぶりを振って否定する。

──私たちは、上司と部下。それ以上でも、以下でもないのだから。

「A」

「は、はい」

「……着いたぞ?」

気がついたら、地下室の前。いつの間に着いていたのだろう。少し恥ずかしくなった。

「す、すみません。ありがとうございました」

そそくさと扉を開けようとしたが、右手が動かない。後ろに引かれるような感覚。

「……ドレッセル隊長?」

「……」

隊長が、私の右手を、握っている。

顔を赤くして、下を向いて黙りこむ隊長。何故そんな表情をしてるのだろう。

握られる手が熱く、固い。男性の力なのだから当然だが、緊張でじんわりと手汗がにじんできた。

緊張と虚ろな想い→←警察署の地下室



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作者名:紅ゆずりは | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2020年9月26日 22時

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