警察署の地下室 ページ7
薬識の魔人、もといお師匠は、私に薬草の写真を見せる。
「これハ？」
「モノトリグサ…… 効用は、軽い火傷と切り傷」
「正解。じャあこレは？」
「マレソウ…… とても貴重なもので、滅多に生えない。効用は、万能」
「よしヨし。じゃア、効用が『呼吸器の活性化』ノ薬草の名前と特徴ハ？」
「名前はカナレグサ。普段は黒っぽいけど、暗いところだとほのかに光る」
「……フむ。素晴らシいね、完璧だ。僕は魔人や悪魔によく効く薬草を全て覚えるのに丸一年かかったよ」
「見タ目モ併セテ覚エルカラナ。薬草自体ハ150種類程ダガ、効用ナドモ覚エルノハ至難ダ」
「確かその150種の多くは、もう生えてないんですよね。実際はもう30種ほどしかないんでしたっけ」
「……本当ニ完璧だネ。まだ君が初メて来てカら二か月なのニ。A、君は優秀ダシ、そろそロ調薬をしてモいいカな」
「本当ですか！」
お師匠の言う通り、ここを案内されてから二か月が経つ。関係ないが、私もついこの間18歳になった。
と、そんなとき、扉を叩く音がした。この叩き方は────
私が「どうぞ」と返事をすると、扉が丁寧に開かれた。顔を出したのは、剃り込みの入った金髪に、翠玉の瞳の青年。
「カルヴィ。そろそろ行かないか？」
「はい。いつもありがとうございます。
お師匠、グーフォさん、少し失礼します」
「ん。行っテらっシゃい。まタ午後ね」
「後ホドナ、A」
私は弁当箱を手に、オスカー隊長のもとに行く。扉を閉め、並んで歩く。
一か月程前から、隊長は私の様子を気にかけてくれるようになったのだ。
それは、ジーノ管理官に指示されたからかもしれないし、以前、私が幽霊のような顔をしながら薬草の名前をぶつぶつ呟いているのを目撃されたからかもしれない。
「体調は悪くないか？」
「ええ、大丈夫です。薬草も覚えました。これから私にも調薬をさせてくださるそうです」
「そうか」
彼は、こうして昼の時間が近くなると、昼食に誘ってくれる。初めの頃は緊張したけれど、今はそれが不思議と嬉しい。
地下室の出入りをするようになってから、ただでさえ付き合いの薄かった同僚に完全に離れられるようになってしまった。
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