出立 ページ44
リベリオが訪ねてきてから、三日ほど経った夕方。
ごりごりと薬草を磨り潰していると、てんちょーが裏に入ってきた。
「A、キズぐすりはできたのだ？」
「ええ。これで全てですよね」
てんちょーの元で働き始め、そろそろ一ヶ月が経つ。季節はすっかり冬になり、山の方では雪が降り、その姿を白く染めていた。麓の街も、雪化粧だ。
相変わらず武装隊員がうろうろしている。だが、
資金もだいぶ貯まった。そろそろ、頃合いだろう。
「てんちょー、今までありがとうございました。私、明日になったらここを出ます」
「ん？ ……そうなのだ。今までお疲れ様だったのだ」
「こちらこそ、お世話になりました」
この一ヶ月暮らしていた部屋は、快適とは言えなかったが、住むには十分な部屋だった。わざわざ提供してくれたのはありがたかった。
色々考えながらも手は動かしていた。そろそろ商店に出すには十分なキズぐすりを作り終わっただろう。
てんちょーに礼をして、部屋に戻ると、私はバックパックに荷物を詰め始めた。
小型救急箱は着ていくコートのポケットに入れよう。バックパックには清潔なタオルや着替え、資金、食料、水…… その他諸々を、使用頻度が低いものから下に入れていく。
荷物を詰め終えたら、小型救急箱二箱の中身を確認する。軟膏や針、糸などが新しいことを確かめ、蓋を閉めた。
「(これなら、大丈夫よね)」
そして夕食をとり、風呂に入ってから、布団にもぐる。うとうとと微睡む中、ぼんやりと考えた。
彼は──オスカーは無事なのだろうか。ピアノコンクールの襲撃を失敗し、散り散りになったと言われている彼らは、何をしているのだろう。
────捕まったという情報はないから、きっと無事に逃げているはず。
ダメだ、考えていたらきりがない。
……明日は早いからそろそろ寝よう。ゆっくりと目を閉じ、眠りについた。
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