バイト ページ38
確かにそうだ。悪魔薬学を学んでいる間は、普通に働いていた頃より給金が減ったからだ。全く蓄えが無いわけではないが、今のままでは心もとない。
「それはそうですし、ありがたいですけど…… どうして、そんなに良くしてくれるんですか？」
「オマエハ、カルロノ形見ミタイナモノダカラナ」
「……！」
悪魔だから、心が全くないなんて思っていたけど、撤回しよう。
グーフォは、ヒトに近い悪魔なのかもしれない。
彼の、遠くを見つめる赤い瞳を見ながら、そう思った。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
一週間後。
私は、地図が書かれたメモを片手に、ほぼその身一つでスラム街を歩いていた。
「えっと、この辺りかな」
あれから警察署を辞め、荷物を片付けた。必要なものだけをバックパックに詰め込み、他は全て処分した。今、グーフォに教えてもらった知り合いを訪ねるところだ。
“ヤツハ小悪魔ダガ、上手イコト人間界ニ溶ケコンデ商売シテル。サッキ連絡シタカラタブン平気ダロウ”
どうやって連絡したのかも気になるが、とりあえずそこに向かっている。グーフォの話だと、『てんちょー』という小悪魔が、様々な土地を転々としながら商売をしているらしい。
「あっ、ここかな」
それらしい建物を見つけ、そっとのれんをくぐった。
「こんにちは。悪魔・グーフォから紹介された、A・カルヴィで──」
「いらっしゃいませなのだ！！！」
自己紹介を遮られた。思わずずっこけそうになるが、こらえた。
「……ん？ おまえ、見たことない顔なのだ」
「えと…… 悪魔・グーフォから紹介にあずかりました、A・カルヴィです。てんちょーさんですよね？」
「ああ、おまえがそうなのだ。グーフォから聞いていたのだ。てんちょーは人間だけどよろしくなのだ」
なんて言っているが、グーフォから小悪魔だと聞いている。彼が人間なわけがないが、聞かなかったことにする。
てんちょーは、猫耳のついたフードをかぶり、つぶらな赤い瞳をしていた。服は少しぼろぼろで、顔はよく見えない。
「じゃあ、早速仕事を頼むのだ。おまえには裏で働いてもらうのだ。キズぐすりとかの調薬を頼みたいのだ」
「はい」
キズぐすりの調薬は簡単だ。薬草と清潔な水など、材料は比較的入手しやすい上に、作るのにさほど時間がかからない。
これからのためだ。やるからには、全身全霊をこめて。
私は、白衣を着て、裏に回った。
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