覚悟 ページ36
だが…… 自分は、この男と五年間共にいた。
全く情がないと言ったら嘘になる。悪魔にも、こんな人間らしい感情があったのかと、グーフォは少し驚いた。
「……ワカッタ。ドウセオマエハモウ死ヌシナ。ソレニ、コンナンデモ五年連レ添ッタ仲ダ、聞イテヤル」
「あリがとウ」
カルロは、不器用に笑った。そして、Aに向き直った。
「A、君はもウ大丈夫だヨ。この数ヶ月、ヨく頑張っタね……。あとは、最後のモのを学ぶだケだ」
「……はい」
Aは、涙声で返事をする。鼻をすする音も聞こえる。
「だケどネ、A。最後のもノを学ぶカは、
「……お師匠?」
…………………………。
そこにあったのは、ただひたすらの静寂。
カルロは、もう返事をしなかった。きっと、Aが握るカルロの手は、もう力がなく、これからどんどん温もりが失われるだろう。
優しいその娘は、静かに悲しんだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「オイ、イツマデ泣イテイルンダ」
「……そんな、こと、言われましても」
誰かが亡くなる時って、ものすごく悲しいのに。グーフォは悪魔だから、悲しみの感覚も違うのかもしれない、なんて思った。
「オマエニハ決メテモラウンダカラナ」
「……最後の悪魔薬学を学ぶか、ですよね。やるに決まって────」
「本当ニ、ソノ覚悟ガアルノカ?」
「……え?」
グーフォの、低く、冷たい声。いつもの、冗談を交えたような軽い口調とは、全く違う。
「ダカラ──オマエニハ、コノ薬ノ全テヲ受ケ止メル覚悟ガアルノカ?」
「……全てを、受け止める…… 覚悟?」
目の前の悪魔は、厳しい表情を全く崩すことなく、淡々と言い始めた。
「カルロハ、最期マデオ節介ナヤツダ。
『コレヲ学ンデ、オマエニ何ガ起コルカナンテ分カラナイ。ソレデモヤルノカ?』
カルロハ、キットオマエニソウ言イタカッタンダロウナ」
「何が起こるか分からないって、どういう事なんですか」
「頭ノ悪イ人間ダナ。ソノママノ意味ダヨ。悪魔薬学トイウノハ、当然悪魔ガ開発シタモノダ。ダカラ、ソノ効果モ、反動モ、人間ニハ未知数ナンダヨ。
カルロハ、代償ヲ用イテ正式ニ私ト契約ヲ交ワシタカラ心配ナカッタガ、オマエハ違ウ。契約ニ守ラレテイナインダヨ。今更、私ト契約シ直スナンテ出来ナイカラナ」
その脅すような話し方は、私の覚悟を確かめているようだった。
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