覚醒 ページ31
「これを。隊長のご愛用のものです」
「こんなものまで…… 大変だっただろう」
「それはもう。でも、気にしないでください。時間はあまり無いんです」
先程、スマホに警察署からの緊急速報が入った。──テロリストらが、カジノ・ミスティに訪れているとのことだ。恐らく、
隊長はサーベルを受け取り、その腰に携えた。
「そうか。……本当に、ありがとう」
隊長は、私をまっすぐ見つめ、微笑んだ。
──ああ、その笑顔が、とても愛しい。
「……隊長」
「オレはもう行く。──それに、オレはもう隊長ではない。これからすることを考えたら、指名手配犯が妥当だろうな」
隊長──オスカーは、私に背を向けた。
ああ、行ってしまう。きっと、
「どうか、お気を付けて」
せめて、心配がないように。私は満面の笑みを浮かべた。
しかし、オスカーは、こちらを振り向いた。私の顔を、じっと見つめる。
何だろうと少し驚いたが、こちらに数歩歩み寄ってきた。向かい合う形になる。
「……オスカーさん？」
彼は、さらに数歩、私に歩み寄る。距離が、近い。でも、私は後ろに下がらず、そこに突っ立ったままだ。
「A、あとひとつ頼みがある。
オスカーは、Aの形のいい顎に手を伸ばした。上に少し上げ、顔を向け合う。
そしてゆっくり顔を近づけ、そのまま彼女にそっと口をつけた。
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その数分後、医師と検察官のふたりは、とある病室に向かっていた。
「そろそろ、ドレッセルは起きているだろうかねぇ」
「さっさとテロリストとの関連性を吐かせないとな。……全く、迷惑な話だ」
医師が病室の扉に手をかけるが、鍵がかかっている。
不審に思いながらも、合鍵を取りだし、鍵を開けた。
「おいドレッセル、起きたのか……」
だが、そこにオスカー・ドレッセルの姿はなかった。
代わりに、ベッドに伏せるように倒れていたのは、警察署に勤めるA・カルヴィだった。
医師らは顔を見合わせると、Aの介抱を始めた。
「カルヴィさん！？ 気絶してるだけか」
「……首に手刀入れられたんだな。にしても、なんで少し顔が赤いんだ？ ──しかも、涙の跡まであるぞ」
「さあな。……こりゃ彼女にも、事情聴取だな」
ふたりは、やれやれと肩をすくめた。
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