ラプラスの警察署 ページ4
諦観の意を示す私に気づいたのか、拘束が緩くなる。私を奥に入れると、彼は扉の前に立ち、誰かに連絡を始めた。
「(殺されるにしても、苦しくない方法がいいなぁ。できれば一息にお願いしたいな)」
数名の友人に伝言すらできないのは悲しいが、他に身寄りはない。私が死んでも惜しむものはさほどいないだろう。
そんなことを考えてると、倉庫に誰か入ってきた。──ジーノ管理官だ。
「あらあら、Aちゃんじゃないの。オスカーちゃん、本当に見られちゃったのね？」
「はい。……すみません」
「いいわよ。アタシ達、どうせ考えてたじゃない。次の “ アノ役 ” 、誰にするか」
あの役、という言葉が少し引っ掛かった。──別館の地下は、誰も入れない謎の部屋があるという噂。
何故か今、それを思い出した。
そこで何が行われてるかは──まあ、当然知らない。
「ねぇ、Aちゃん」
「……はい」
ジーノ管理官はつかつかと近づいてくると、私の肩に手を置いた。そして、ぞっとするほど低い声で囁いた。
「アナタ──今からでも薬師になる気はないかしら？」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
「くっ、薬師？」
「ええ。だってアナタ今、オスカーちゃんが魔人だって知っちゃったわよね？
もう分かってるでしょうけど、これはね、アナタみたいな普通のコが知っちゃいけないことなのよ。
このままだと…… アナタを消さなきゃいけなくなっちゃうのよ？」
ジーノ管理官の表情が、私を脅すためのものに変わった。
いつものへらへらした笑顔とは違う眼力の、強い威圧感。嫌な汗が更に背中を伝う。管理官のこんな表情は初めて見た。
きっと、本気で脅すときは、誰にでもこんな表情をするのだろう。──たとえ、私よりも幼い、か弱い少女にでも。
「どうかしら？ アナタ賢いし、手先も器用みたいだし。良ければ引き受けてほしいのよ♪」
管理官は表情を一転させ、にこりと笑った。
別に、生きていたころで、どうしてもやりたいことがあるわけではない。
だけど…… ここで簡単に殺され、捨てられる理由もない。
やりたいことは無いが、生きていたくないわけではないのだ。むしろ、やりたいことを見つける好機だと思った。
それなら……
「……分かりましたわ。薬師、引き受けましょう」
薬師なら、誰かにカラダを売らせる、とかでもなかろう。さすがにそれは嫌だが、まあそうなったら逃げようか。
──逃げれない可能性の方が高いけど。
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