出来ること ページ26
送ってくれた彼に礼も言わず、弾けるようにパトカーを降りた。勢いのあまりよろけて転びそうになりつつも、必死で駆け寄り、隊長の横にしゃがみこんだ。
首元に手を当てると、……脈はある。まだ生きている。だが、頭の傷と腹の傷はあまりにも大きくて、私ではどうにもできない。
「しっかり…… しっかりして、くだ、さい……」
声が、か細くなっていく。どうにかしなくては。だけど、目から熱いものが流れるばかりで、どうしたら良いか分からない。
ふと、パトカーのものではないサイレンが聞こえてきた。なけなしの冷静さのお陰で、それが救急車のものだと分かった。
「離れてください」
すぐに降りてきた救急隊員は、隊長を丁寧に、かつ素早く救急車内に運んだ。私も、よろよろと後を追う。
隊員は、私の様子から何かを察したのか、救急車に同乗させてくれた。
車内では、素早く、隊長の治療が進められていく。
──どうか、無事で、無事で。神様、お願い。
普段はさほど信心深くないのに、こういう時だけは奇跡を願い神様に頼る。
祈るように握りしめた私の両手は、震えていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「カルヴィ」
先程、隊長の所まで送ってくれた同僚が、手術室前で暗い顔をする私に、缶コーヒーを差し出してくれた。
「ありがとうございます」
まだ震える手で、温かな缶コーヒーを握りしめた。同僚は一瞬、不安げな瞳で私を見つめた。彼が、口を開く。
「カルヴィ…… そんなに気を落とすな。隊長ならきっと大丈夫だ」
「……そう、ですかね」
「ああ。怪我はひどかったし、なかなかだったが…… さっき調査結果が来たんだが、隊長、本当は魔人なんだってな」
「……え?」
何故、この人がそれを知っているのだろうか。……いや、違う。
────知られてしまったのだろう。
「そう、なんですね」
「驚いただろ? 俺もだよ」
私が驚いたのは、彼が隊長が魔人という事を知っていたからだが、それは伏せておく。
「ラプラス警察に魔人がいたなんてな、洒落にならないよな」
彼はその後も色々言っていたけれど、私の頭にはあまり入ってこなかった。
ただ、隊長の無事を、ひたすら祈っていた。
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しばらくして、手術室のランプが消えた。中から、医師と看護師が、運ばれている隊長と共に出てくる。
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