無口な対話 ページ22
ふと前を見ると、隊長が歩いてくるのが見えた。思わず身構えたが、こちらに来ることはなく、手前の曲がり角を曲がっていってしまった。
曲がり角の先の階段を下りた先は玄関だ。外に行くのだろうか。……もしや、ノエル・チェルクェッティらを捕まえに行くのかもしれない。
いくら少女とはいえ、魔人と大悪魔のコンビだ。もしかしたら、隊長は怪我をして帰ってくるかもしれない。今のうちに、薬や包帯を用意しておこう。
お師匠に事情を伝えて、以前ジーノ管理官から伝えられた、一部の人間しか入れない、特別な医務室に向かうことにした。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「(こんなものかな)」
消毒液や針、糸などの簡易な治療器具や、清潔なガーゼと包帯を揃えた。あまり関係ないが、どうやら、管理官も外出していたらしい。
念のため、隊長用のラプラス警察の制服なども用意して奔走していたら、夕方になっていた。
「(もしや、無駄だったかなぁ)」
何となく、もらって以来いつも着けている簪に触れる。金属の冷たい感触と、プラスチックのつるっとした表面を感じる。
そのとき、ドアを多少乱暴に叩く音が聞こえた。裏口からだ。何事かと思い開けると、……隊長が、立っていた。
至るところに擦り傷や切り傷があり、何故かオイル臭かった。もしや、オイルをかけられ、火をつけられたのだろうか。
「隊長、その傷は……」
「A、治療を頼む。少し傷が深い。これだと他の医務官に頼むとオレが魔人だとバレる」
悪魔にやられたんですか、と言いかけた私の言葉を遮り、隊長はただ淡々と用件を告げた。それなら、やるしかないのだ。
「……わかりました」
簡易的な治療は以前お師匠に教わったばかりだが、何とかなるだろう。多少緊張するが、やらない道はない。
「シャワーを浴びたら、そこに腰かけてもらえますか。なるべく傷口にお湯やオイルを当てないようにお願いします」
まずは、汚れを取ることが先決だろう。オイルを落としてもらって、それから治療をしよう。隊長はタオルを掴み、さっさと併設のシャワー室に向かった。
その間に、バットに消毒液を張り、使う道具を入れていく。消毒をある程度、適切にすれば、傷はひどくならない。お師匠から教わったことだ。
私自身も白衣をまとい、ゴム手袋を着ける。10分ほどで、隊長はシャワー室から戻ってきた。
少し濡れた金髪が、夕陽に反射して鈍く光っていた。
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