ラプラスの警察署 ページ3
「……さすがに、肩が痛いな」
書類をデータ化するのには思ったより時間がかかった。終わらせてから時計を確認すると、もう定時になっている。
そろそろ寮に戻らなければ。
書類を片付け、そそくさと荷物をまとめ、寮の方向に向かって歩き出した。
すたすたと足を進めていると、何だか耳に違和感を感じた。──誰かが、呻く声がする。
「……ゴ、…………は、……ず、……レの、……とに」
きょろきょろと回りを見ると、わずかに扉が開いている部屋があった。人が滅多に来ない倉庫だ。
隙間からは、剃り込みが入った金髪が見える。あれは…… オスカー隊長だ。何故こんなところにいるのだろう。
「……フー、ゴ、………… 何故、……」
私は、苦しそうにしているから、声をかけなければと思っただけだった。
「オスカー隊長、大じょ……」
私が声を出した直後、彼は勢いよくこちらを振り返った。驚いたような表情で。
だが──彼の瞳は、
彼の瞳は、
白目は黒色になり、顔には魔方陣のような模様も浮かんでいる。さらに、よく見ると、彼の回りに黒い靄のようなものが浮かんでいた。
私はそれが何だか知っている。
以前、知ったことがあるから。
──魔人の、堕天現象。
悪魔と契約した人間に起こる、悪魔との願いを、日々、よほど愚直に意識してないと起こらない力。
意志の強さがそのまま力になるそれは、己の命を削る諸刃の剣。だが、今はそれどころではない。
隊長は、本当は魔人だった?
悪魔との契約は、この国では犯罪だ。しかも、法を司るラプラス警察の機動隊隊長が、魔人。
この事がとんでもないことだというのは、一瞬で理解した。これはまずい。背中を、嫌な汗が伝って落ちた。
「(私…… もしかして消される?)」
オスカー隊長は、堕天を引っ込めると、廊下に突っ立っている私にずんずんと近づいてくる。──本当にまずい!!
私は弾けるように駆け出す。だが、ヒールを履いて走る私に、機動隊隊長が追い付けないはずがなかった。
あっという間に隊長に捕まり、手を掴まれた。持っていた荷物が床に落ちる。抵抗しようとするが男の力には敵わない。
「……離し……!」
叫ぼうとする私の口を、彼は手で塞ぐ。私の手を掴み、口を塞いだまま、先程の倉庫に連れてかれる。
──あー、これは本当に、終わったかな。
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