翠玉 ページ14
夕方、自分の部屋に戻って洗濯物を片付け、手元の資料を確認する。
三日ほど前、ラプラス市のピアノコンクールが行われた。優勝は、市街地に住む、貧乏な努力家ジリアン・リットナー。
素晴らしい演奏をしながらも優勝を逃したという、ピアノの名家の令嬢ノエル・チェルクェッティは、コンクールの夜から行方不明だという。両親から捜索願が出されたが、未だに見つかっていない。
────どうせ、市長が何かしたのだろう。
オスカーには分かっていたが、彼にとってはどうでも良かった。弟を助け、更正させるという目的を果たすためなら、何もかも捨てるつもりだった。
……だったのだ。
己の愚かなミスにより、ある部下に魔人であるという事がばれてしまった。現在、彼女は地下室にいる薬識の悪魔と魔人に、薬の知識を受けている。
彼女には悪いことをした。生きるために嫌々、薬師修行を始めたのかもしれないから。目元に開けたピアスは、彼女に対する贖罪のつもりで行った。
元々、同僚に大した友人はいないと言っていたが、それでも居場所を無理やり変えてしまったことには間違いない。申し訳なくて、胸が痛んだ。
なのに、彼女は嫌なそぶりを一度も見せなかった。
「ええ、大丈夫です。薬草も覚えました。これから私にも調薬をさせてくださるそうです」
淡々と、でもどこかうきうきしながら答える彼女は、年相応の娘に見えた。
──オレは元々、A・カルヴィの事を知っていた。
彼女が
……彼女の生い立ちについて。
当初はどうでも良かったが、今日の彼女の様子を見て、なんとなく噂に確信を得た。だからと言って、脅したりするわけではないが。
『オスカーちゃん、あの子…… Aちゃんよ。あの子の事、ちゃんと見張ってなさいよ？ アナタやアタシの事を言いふらすような子じゃないとは思うけど、念のため、ね』
『え、具体的には？ うーん…… お昼一緒に食べるとかしたら？ 心を開いてくれたら、お離ししてくれるわよきっと。アタシは忙しいし、あの子、アタシの事を怪しんでるから、アナタがちゃんと見てあげなさいな♪』
ジーノ管理官に命じられたから、仕方なく、一ヶ月前、彼女と共に昼食をとることにした。当然、初めはお互い気まずく、一言も話さないことがほとんどだった。
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