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晴れやかな蝶 ページ12

「いや、その、……何だ、誕生日が、近かったのだろう?」

「近かったどころか……」

終わっている、という言葉を呑み込む。耳まで赤くした隊長は、私に箱を差し出している。

「……ありがとう、ございます」

箱を両手で受け取ると、そっと蓋を開けた。

その中には────鮮やかなモルフォ蝶のモチーフが付いた簪。

「オス…… 隊長、これを私に?」

いけない、呼び捨てで名前を呼ぶところだった。

東洋の国々で、昔よく使われていたというそのアクセサリーは、なんとも美しい色彩を持っていた。

「ああ…… 悩んだ末に、お前に特に似合うと思ってな。昨日、昼に買ったものだから新品だ」

「それって……」

元同僚と出かけてたのは、(これ)を買うためだったのだろう。あの状況では勘違いをするのが仕方ないとは思いつつも、同時に、勘違いをした自分に呆れた。

「とっても素敵です。本当にありがとうございます、隊長」

かなり照れくさくなってきたが、素敵なアクセサリーを貰って悪い気はしない。自然と頬が緩み、隊長に礼を言った。

隊長はそんな私から目を逸らしつつ、問いかけてきた。

「……最近、調薬を始めたようだな。調子はどうだ」

「順調です。もうしばらくしたら、私一人でも何とかなりそうです」

「そうか。……それは良い」

沈黙。だが、すぐに破れた。

「……オレには、弟が一人いるんだ」

「え?」

「子どもの頃のオレは病弱で、ほとんどの時間を病院で過ごしていた。

オレの治療費のせいで家庭には余裕がなく、両親はいつも働きに出ていた。……それでも、両親の愛情は確かに感じられた」

隊長は、ぽつりぽつりと、思い返すように話し始めた。

「オレが寂しそうに寝ているのを気にかけてくれていた元気でやんちゃな弟は、よく学校であったことを話して聞かせてくれた。

弟の──フーゴの話は、オレの知らないことで満ちていて、とても面白かったんだ」

「……優しい弟さんなんですね」

思ったことをそのまま言うと、ほんの一瞬、隊長は嬉しそうに微笑んだ。が、すぐに厳しい顔つきに戻ってしまった。

「だが…… オレの大きな手術が終わって容態が安定し、家に戻れるようになった時…… オレの家は、全焼した(・・・・・ ・・・・)

「!」

数年前、家が全焼。その二つのワードには覚えがある。つい己の二の腕を撫で(・・・・・・・・・・)、続けて話を聞く。

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作者名:紅ゆずりは | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2020年9月26日 22時

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