翌日の蝶 ページ11
「ホら、マレソウ。軟膏に混ぜコむんダ。もチろん、貴重だカら失敗しナいようニね」
「う…… わ、分かりました」
師匠からマレソウを受け取り、すり鉢に入れ、すりこぎ棒で潰す。グシ、グシとどこか心地よい音がする。
粉々になったのを確認し、少しずつ元の軟膏を入れていく。混ざったら足す、を繰り返し、時間をかけて全ての軟膏を混ぜ合わせた。
「どうですかね？」
お師匠に差し出すと、確認が入る。
「うーン、悪くなイけどネ、もう少しマレソウを粉々ニしてかラ混ぜた方ガいいかモね」
「……すみません」
「でも、十分使エるよ。大丈夫サ」
お師匠は軟膏をいそいそと容器に移していく。すると、扉を叩く音がした。
「……どうぞ」
私が声をかけると、やはり丁寧に扉が開かれた。そう、オスカー隊長だ。
「A…… その、少しいいか？」
「……何がです？」
何だか様子が少し変だ。どこかそわそわしながら、声をかけてきた。
「いや、その…… い、嫌なら強制しない」
何だかその言い方が引っかかった。
嫌なら強制しない？ 私がいつも、むりやり誘われてるとでも思っているのだろうか。
「いいえ、行きますわ」
そんなわけがない。思っているわけがない。
だけど、昨日のあの現場を見たせいだろうか、彼の言動に腹がむかむかとしてきた。
────この気持ちは、私の勝手なモノなのに。それなのに、苛立たずにはいられない。
────身勝手にも程がある。
手提げを手に少し雑に椅子から立ち上がると、すたすたと歩く。
「またアとデね、A」
「はい」
二人並んで歩くが、沈黙が続く。どちらも何も話さず、それでも、自然に、いつものベンチに向かっていった。
お互い、隣に腰掛けると、私は手提げを探る。やはりサンドイッチを取り出し、ぼんやりと齧る。
平らげてから、いつも通りまた空を眺めようとした。だけど……
「(空、綺麗に見えないなぁ)」
もちろん、綺麗なことは綺麗なのだ。だけど、そう思えなかった。
私は、昨日見たことを未だに引きずっているのだと気がつき、未練たらしいと思う。
こんな思いするくらいなら、次からは誘われても行かない方が────
「A
……！？ い、いや、カルヴィ……」
心なしか、隊長が私の名前を呼んだ気がした。ぼんやりしてたせいで、よく聞き取れなかった。
「何でしょう？」
隊長の方を振り返ると、……白い、縦長の箱。
「……え？」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 20人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
