quartetto.

・ ページ15

・





朝は電車だけじゃなく道路も混雑していて
なかなか車は進まない

でもいつもラッシュを少しでも避けようとかなり早めに家を出ているので
このままのんびり進んでも遅刻の心配はない







流れている音楽に合わせて微かに歌う隆二を横目に感じながら
窓の外の忙しなく動く人や車を見ていると






またふと小さい頃を思い出した









今日の夢の中でしてくれていた様に
隆二はたまに私の頬に触れる事があった

小さい時も大きくなってからも









手のひらで頬を包むんじゃなくて
指の背をほんの少しだけ触れさせて
それから親指だけで軽く2回私の頬を撫でる









いつもしてくれたわけではない
それは本当にたまにしかされないのだけど
でも隆二はその時だけはとても穏やかな顔で私を見てくれる









でもそれはどんな時だったんだろう
何かきっと私と隆二の間で特別な事が起こった時なんだろう









『隆二ってさ、小さい時からちょんちょんって、
私のほっぺって触る時あったよね
あれどーゆー時にしてたんだっけ？隆二の癖？』









窓の外を眺めながら隆二に話しかけると









「え、起きてたの？」









と良く分からない返事が聞こえてくる









聞いているのは私の方なのに
それに私の質問と隆二の答えが全く噛み合っていない気がする









『起きてたのってなに？いつの話？』


「え？あ、いーやなんでもない
Aのほっぺムニムニして気持ちいいから昔から無意識に触ってたんじゃない？」









自分から発したチグハグな答えのくせに
まさか寝ぼけてるのかと隆二の顔を見ても
寝ぼけている感じはしない
ただいつもより顔が赤い気がする







『ねぇもしかして熱ある？』


「は？無いよ、全然元気」


『顔赤いよ？』


「…日当たって暑いからじゃない？」









また少しズレた答えが返ってきて
相変わらずちょっと抜けてるなと感心しながら、
隆二が言ったようにただ私の頬が柔らかいから触っていたのかと考える






無意識に触っている感じでは無さそうだったのに
夢の中にまで出てくるあの手はもっと何か意味があって、私にとってはとても落ち着くものだったのに









隆二にとっては特に意味のないものだったのかと思うと、なんだか少し寂しく感じた

・→←・

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す