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「ご静聴ありがとうございました」
まばらな拍手と共に照明が明るくなり、会場にザワつきが戻る。私は静かに大きく一息ついて、スクリーンに映るパワーポイントを終了させるべくパソコンを操作する。
「おつかれさま、です」
ぎこちなく上から降ってきた声と、正面の陰りを辿って視線を上げると、その先には端正な顔に難しい表情を浮かべた人。
「聞いてたんだ」
「だってこれ、全員対象じゃないっすか」
大きな流れのように社員達が外へ出ていくのをお互い横目でチラチラ眺めやり、私は彼へと視線を戻す。
言葉遣いはほんのり崩れても依然として何やら難しい顔をしたままだ。
「目黒くん、何か言いたげな顔してる。どこか気になるところあった?」
彼の手元にある、今日の講習会のために作った資料に目をやる。同じように資料へ目線を落としたあと、目黒くんはそれを上げてパラリと捲った。
「なんか、意外で」
ほとんどの社員が出てしまったあとで聞く声は、小さく呟いたつもりでも案外鮮明に聞こえる。
「どの辺り?」
「いや、資料の中身じゃなくて。Aさん、もしかして結構優秀な人?」
難しい顔の次は戸惑いの顔を見せた。
「君は私をなんだと思ってるの。仕事はきっちりやりますよ」
「きっちりどころか、選ばれし人…」
その言葉に笑いの息が漏れた。
「大袈裟だなぁ。たまたま行った研修の内容を、ここの社員にも教えて欲しいって上司に無理やり押しつけられて断れなかっただけなんだから」
家に持ち込んで資料作るハメになって、本当に面倒な仕事だったのだ。思い出すだけでもうんざりする。
「ていうか、初めて会った時にはもうこの内容と日程告知されてたよね?」
「だってAさん、下の名前でしか自己紹介してくれなかったじゃないですか。だから全然気付かなかった」
「そうだっけ」
「そうっすよ」
つい1ヶ月ほど前の光景を思い出す。
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ありぃ(プロフ) - るるさん» コメントありがとうございます!嬉しい言葉ばかりで感激しております。。。しかももう3回も読んでくださっているだなんて、感謝しても足りないくらいです。いつでもここの黒さんが癒しますので、またいつでも来てくださいね。こちらこそありがとうございました!! (2021年12月19日 1時) (レス) id: 0d9038abf3 (このIDを非表示/違反報告)
るる - めちゃくちゃ好きなお話でした。描写も細やかで、すごくイメージが出来ましたし、黒さんのセリフも絶妙でした。すでに3回読み返して、噛み締めております。素敵な小説を、ありがとうございます!! (2021年12月18日 22時) (レス) @page33 id: 5db6c5f68c (このIDを非表示/違反報告)
ありぃ(プロフ) - まあさん» 初コメントいただけて感動しております…!ありがとうございます。説明文過ぎるかなぁとか、キュン要素はあるのか?とか自問自答しながら書いておりますが、最後まで楽しんでいただけたら嬉しいです。お気遣いもありがとうございます! (2021年12月11日 16時) (レス) id: 0d9038abf3 (このIDを非表示/違反報告)
まあ - 登場人物がそれぞれ魅力的で人間味があって、いつも楽しく読ませていただいています。毎日更新が楽しみでもあり、ありぃさんの負担になりませんように、と思っています。 (2021年12月11日 9時) (レス) @page27 id: c7a497417a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ありぃ | 作成日時:2021年11月24日 23時