春めいた今日に、深呼吸【忍足侑士】 ページ5
「侑士君、見て見て!」
大きな音を立てて扉を開いてそう言った。
部屋の主である侑士君は、私の突然の訪問に一瞬驚いてから、呆れたようにため息を吐いた。
「A、来る時はノックくらいせぇっていっつも言うとるやろ?」
「ごめんなさい、でも早く見て欲しくて!」
侑士君は割と細かい事をゴチャゴチャ言うタイプなので、こういう時は素直に謝った方がいい。
確かにノックとかは、大雑把な私は気を付けた方が良いのだけれど。
「で、どう?」
私はこの春から氷帝学園の高等部に進む。ついさっき、自宅に高等部の制服が届いたので、さっそく身に纏い、同じマンションに住む2つ歳上の侑士君に見せに来たのだ。
中学以来2年ぶりに、また侑士君と同じ学校に通えるのだ。テンションが多少上がってしまうのも許して欲しい。
スカートの裾をつまんで、くるりと一回転してみた。
「まぁ、似合っとるんとちゃうか〜」
「何それ適当!」
ちらっと私を上から下まで一瞬見ただけで、侑士君は机の上に目を戻してしまった。
「ヒロキ君は、似合ってるって言ってくれたのに…」
侑士君にも嘘でもお世辞でもいいから可愛いって言って欲しかったのに。
そんな不満を漏らすように呟いた。
「ちょお待て、ヒロキ君って誰や?」
背を向けた体をもう一度こちらに向けて、侑士君は私に尋ねた。
「ヒロキ君知らないの?マンションの3階に住んでる小5の子だよ」
私の返答を聞くと、侑士君はまたため息を吐いた。
「え、どうしてため息!?」
「いや、なんか気ぃ抜けたわ。小学生か」
「ヒロキ君のお母さんにも褒められたよ!やっぱり氷帝は制服可愛いわねえって!」
「それAやなくて制服が褒められとるやん」
「…似合ってるっていう意味も、含まれてた!」
多分だけど
ちょっと自信が無くなってきたので、尻すぼみになった。
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作者名:かの | 作成日時:2017年3月28日 0時