【被虐のノエル】愛したい、愛せない【フーゴ・ドレッセル】 (ページ6)

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#3 謝らない前編ページ6

***

「なんだよこの状況。メンドクセェ」
『こっちの台詞なんですけど』

正直、もうここにくることは無いと思っていた。
＿＿このラプラス市で一番警備が重い場所、市長官邸。

『ていうか、こんなところに顔パスで入れる犯罪者って、あんた一体何者なのよ』

私は一つ深い溜息を吐き、隣で欠伸をする爆弾魔＿＿もとい魔人フーゴ・ドレッセルを見上げてそう呟いた。

遡ること2日前。

市街地の民家が爆弾魔によって焼け落ち、駆けつけた消防隊が周囲への延焼を防いだ頃には、出火元の家に住んでいた一人娘は既に行方を眩ませていた。
それを受けた警察は捜索を開始。近隣住民の「最後まで私たちに向けて避難を呼びかけていた」という証言より、もう亡くなっているのでは無いかという意見も出たが、焼け跡から遺体が発見されないため両方の可能性を視野に入れて捜索を続けている。

『と、言ったところかしらね』

現状を軽く報告すると、爆弾魔は笑みを浮かべてこちらを向いた。

＿＿私の拳を受けたこの爆弾魔は、なんとその一撃で倒れ込んでしまった。
意識を失うようなことこそなかったが、見た目よりかはいくらか貧弱、らしい。
その後警察が駆けつける音を聞いた彼は、何故か私を連れて逃亡。「詳しいことは後で話すからとりあえず着いてこい」と言われたが、2日経った今でも連れてこられた理由は疎か彼の本名すら聞いていない。
ちなみにあれから私は郊外の廃墟で暮らしている。
彼は一度この場を離れたかと思うと、数時間後に幾らかの食料を持ってきてくれた。どうやら彼の本拠地は別の場所にあるらしい。

「やっぱりこの事件も“噂の爆弾魔の仕業”ってことになってんだな」
『いや、それであってるじゃない。なに冤罪みたいに言ってるの』

私がそう言うと、なにが面白いのか彼はケラケラと笑い出した。
ガスマスクを外した彼の顔は意外に整っていて、光を反射する綺麗な金髪と澄んだ翠の目がなんとなく好みだった。
しかし、左目の辺りを覆うようにある大きな火傷跡が私には痛々しすぎて、目を合わせるのはまだ少し憚られる。

「まあ、燃えてしまったもんはしょうがねぇ。問題なのは、時間がズレちまったのが俺のミスにされてるってことだ」

彼が仕掛けた時限爆弾は、私がガスコンロを使ったことによって、予定よりも早く起爆してしまった。それに関しては私も少しの申し訳なさを……感じているはずは無いが、そもそもの疑問が残る。

『ねえ、なんで私の家を爆破しようとしたの？』