#12 そんなはずない ページ16
__温かい。溶鉱炉の熱じゃなくて、もっとこう、体温に近い温もり……それが、私の身体に伝わる。
あと、これは…火薬の匂い?わからないけど、あと、焦げ臭いような匂いも少し……
「……起きたか?」
『う、うわぁっ!!』
目が覚めてすぐ、身体が宙にあることに気がついた私は、慌てて周囲を見渡した。
正面にはフーゴの焦げくさいカーキのジャケット。背中には筋肉質な腕が回されている。俗にいう俵抱きの体勢になっていることは容易に想像できた。
『ちょっと! お、降ろして!』
「運んでやってたんだろうが!文句言うな!」
『私はもう起きたから! 歩いてベッドまで案内して!』
「文句の多いやつだな……」
そう言いながらも、フーゴはその場で私を降ろしてくれた。
(……それにしても、嫌な夢を見たわ。気分最悪)
契約するにしても、もう少し考えようがあったんじゃないかと常々思う。
例えば、「父と過ごした平穏な日常を返して」とでも言えば、冤罪も晴れ、父も戻ってきただろうに。あの時の私は酷く盲目的だった。父よりも自分のことを選ぶだなんて、自分勝手なやつだ。
見た夢を思い出し自己嫌悪に浸っていると、フーゴが思い出したかのように話しかけてきた。
「そういえばお前、自宅放置してきてるけどよ……家族とかは大丈夫なのかよ?」
いや、その自宅を爆破した張本人に言われたくないわよ__心の中で悪態をつきつつ、返答する。
『一人暮らしだったから大丈夫よ。母は幼い頃に亡くなっていたし、父は先月殺されたわ』
「……そうかよ」
殺された、という単語に反応したのだろうか。フーゴは少し気まずそうに視線を逸らした。
「……確か父親はあの議会委員だったっけな。ハッ、成る程。バロウズの野郎の癇に障ったってわけか。じゃあ、お前のこの髪は母親譲りか?」
スッ、と。彼が私の黒髪に触れた。
……瞬間火照り出した顔を誤魔化すように、無表情を貫いて淡々と答える。
『母が日本人なの。この黒い髪も、茶色の瞳も、母親譲りよ』
そうかよ、と興味がなさそうに言い、彼は髪から手を離した。
そして、互いに無言のまま歩き出す。
(…嘘でしょ。なんで、いつ、私はフーゴのことを…!?)
突如訪れた、それは……恋の自覚。
__上昇した体温は、高鳴った胸の鼓動は…まだ、落ち着かない。
129人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:cc | 作成日時:2017年12月28日 10時