#9 強くない ページ12
勝手に話つけんな、馬鹿じゃねーの、と頭を小突かれた。
市長官邸からの帰り道。私はフーゴの左側に立ち、夜空を見上げていた。
星は、好きだ。届かないから綺麗で。
きっとこの手に届いてしまったら、それはもう価値のないただの石ころだ。
「俺に無断でやったのは気に食わねぇが……しかしお前、よくやったなぁ。クク……あのバロウズをあんな風に言いくるめちまうなんてよぉ……」
特徴的な笑い声をあげながら、彼は私をそう評した。
フーゴは、私を堂々としたやつだと思っているのかもしれない。クソ市長に対して大きな態度で立ち向かう、狂った魔人だと。
でも__実際は、そうじゃない。
『ねえ、フーゴ。私の右側に立って』
「突然なんの命令だよ。俺がどこに立とうが関係ないだろ」
『……関係あるのよ。利き手側を空けておくのは、不安だもの』
フーゴが、少し驚いたようにこちらを見る。さっきまで市長と対等に接していた私が弱みを見せたことに驚いているみたいだ。
『私は、強いわけじゃない。悪魔と契約したのだって、日常が崩れることを恐怖したからだし、さっきだって、本当に代償が発動するかなんて分からなかったし……』
だから私は、と次の言葉を探した時。
__突如、強い風が吹いた。
私と彼を、引き裂くみたいに。
冷たい風が、私の体温を奪って…
「___」
……そして、気が付いた。
私の右腕に伝わる、確かな温度に。
「__おい、A!」
『!!』
グイ、と私の身体が彼の身体の方へ引き寄せられる。
「急に黙って下向くんじゃねーよ。倒れるのかと思っただろうが」
次の言葉が出てこなくて突如黙り込んだ私を心配してくれたようだ。
……いや、それにしても。
『突然名前で呼んでんじゃないわよ! そ、その、びっくりするでしょ!?』
「ハァ?お前だって俺のこと名前で呼んでんじゃねぇかよ。何言ってんだ?」
私は顔が熱くなっていくのを感じた。
いつの間にか彼のことを名前で呼んでいた。その事実を恥じるより先に_
__「A!」
フーゴに名前を呼ばれたことが、嬉しいと思ってしまった自分を_恥じた。
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作者名:cc | 作成日時:2017年12月28日 10時