となりのデスクのキムくん 2

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とはいえミンギュの疲れもピークに見えたので、今日は早めにお店を出た。帰りの電車では、ミンギュは爆睡。絶対にすぐには起きなさそうなので2つ前の駅から揺すり起こす。

寝起きのミンギュは、寒さよりも眠たさが勝ってとぼとぼと歩いている。

「ちょっとミンギュ、そっちじゃないよ」

繋いでいる手を引っ張るが、逆に私が引っ張られてしまう。…たまにこの人はちょっとだけ強引だ。

さっきまであんなに寒がっていたのに、どうして遠回りをしようとするのか…。

大人しく彼について行くと、今は枯れている桜の木の下の橋へと辿り着いた。


ミンギュの足が止まったので、私も足を止める。寒くないの？と聞こうとすると、私の前に大きな影が被さって、ミンギュの大きな体に包み込まれていた。

彼のおかげでぽかぽかと温かくなる。驚きながらも、背中に手を回した。


「俺、あの日、可愛い子だなって思って声掛けようとしてたんだ」

「……誰の話？」

「高校時代の、Aの話」

ふふっと笑ったミンギュはまだ寝惚けているのか、それともシラフで言っているのか。

「陸上大会で何となく周りを見てたら、Aのことが目に入って…声を掛けるか悩んでたら、すっごい痛そうに転んで、慌てたから頭真っ白になったけど、本当は連絡先聞こうと思ってた」

この前、高校時代の先輩とその時のことを話して思い出したらしい。

「そう、だったんだ」

「うん。嘘ついてないから」

ミンギュの声のトーンで、真剣さが伝わってくる。

「だから、俺ともう1回出会ってくれてありがとう」

彼が腕の力を抜いて、少し私から離れて微笑みながら伝えてくる。


ミンギュの笑みを見上げていると、ふわりと雪のような白いものがチラついて見える。違う、白いものじゃない。

「…雪だ」

「うわ、本当だ。道理で寒い訳だ」

凄い、天気予報では曇りだったのに。ひらひらと舞い降りてくる雪が、指先で溶けていく。

「私も、高校生の頃きちんとしたお礼が言えなかったからずっと会いたかった。…ミンギュと、出会えてよかったよ」

空を見上げていたミンギュが、こちらを見る。嬉しそうだけど、泣きそうな、初めて見る表情をしていた。そんな顔みたら、私まで涙目になってしまう。

「俺、この夜のことを絶対忘れないと思う。忘れずに、ずっとずっと…俺のAへの想いは変わらないまま、隣にいるから」

「私だって、忘れないよ」

私たちの約束を確かなものにするように、初雪が舞い降りた。




Fin.

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