となりのデスクのキムくん 2

72 ページ23

いざ仕事が始まると頭が切り替わって、戻ったのは定時を1時間過ぎた頃だった。ミンギュのデスクには‪誰もいなかったけれど、まだ荷物が置いてある。

私はカフェで買ってきたアイスラテを彼の机に置いて、報告書の作成に取り掛かった。

暫くすると、オフィスの外からミンギュの声が聞こえてくる。いつもの明るい彼の声だ。

「うん、来週の金曜にいつもの居酒屋ね？オッケー！」

…全部聞こえてるな、同期の飲み会のスケジュール。と思いつつ、上書き保存をクリックする。

ふと、顔を上げると鼻歌を歌うミンギュが同じカフェのコーヒーを片手に戻ってきていてしまった、と後悔した。

気付いた時には彼の視野にラテが入っていて、私がそれを手に取ろうとした様子を、ポカンとした顔で見つめて

「おかえり」

と私に言った。

「…ただいま」

不思議そうな顔で腰掛けたミンギュはやはりいつも通りに戻っていた。

「あの、これは…私が飲もうと思ってミンギュのデスクに置いてただけ」

「そうなの？別に置いててもいいけど」

…いつも通りじゃ、ない気もする。ミンギュは特にアイスラテを気にせずにパソコンへと向かった。

私はそっと自分の手元にアイスラテを戻す。

結露で濡れたカップは、ミンギュのデスクを少し汚してしまっている。ティッシュで拭いたあとに謝罪した。

「…ごめん」

「はは、全然いいよ」

何がおかしいのかわかった。彼と全く目が合わない。それは仕事中だから何もおかしくないと言えばおかしくないけれど。

ミンギュも、ずっとこんな気分だったのかな。

私は無意識のうちに彼を見つめていなかったのかもしれない。

平行線のまま、時間は過ぎていき私は報告書を作成し終わってしまった。

荷物をいつもよりゆっくり纏めて、課長と話して戻ってきても、ミンギュはまだ真剣な表情で仕事をしていた。

「先、帰るね。お疲れ様」

声を掛けると、「お疲れ〜」と返される。

もう空になったアイスラテのカップを持って、オフィスの外に出た。

会社の外に出て、ゴミ箱にカップを捨てる。

今日は疲れた。さっさと帰ってシャワーを浴びて寝よう。

晩御飯を買うためにコンビニへに入る。それなのに、足はペットボトルコーナーへと向かっていた。

…ペットボトルなら、蓋を開けなければ次の日も飲めるし。最悪被っても大丈夫でしょ。

烏龍茶を手に取り、お会計をして外に出た。

会社に戻りながら、研修の時の事を今更ながら思い出す。そうだ、あの時も全く同じだった。

73→←71

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す