32 ページ32
ウォヌside
今日はやたらとバイト先が暇だった。暇なせいで、いつも人気なはずのランチセットが2つも余っている。
毎朝、店長が早起きして仕込んでいるランチセット。少し値段は高いが、その分美味い。
「……ランチセットの廃棄は久々だなぁ」
俺がシフトを終えて着替えた後、店長がポツリと呟く。俺にと言うより、独り言がたまたま聞こえてしまったみたいだ。
「買いますよ」
リュックを背負ってそう言うと、店長がこれ以上ないほど嬉しそうに俺の方を振り返った。
「いいの?1つ減るだけでも助かるよ…」
「2つとも買います」
幸運なことにAちゃんのお気に入りのサンドイッチセットも残っている。大したことをした訳でもないのに、とんでもなく感謝されていつも以上に割引してくれた。
お会計をしながら、店長が俺を見て和やかな表情になる。
「誰かと食べるの?」
「はい」
「友達?」
「………いや、違います」
友達でも、後輩でも、お客さんでもない。
それ以上は店長も聞かず、割引した値段を教えてくれる。
大きめの紙袋を持って電車に乗ったけれど、そんなに苦ではなかった。寧ろ、結構楽しみ。
彼女にカトクをすると、『ありがとうございます!ぜひ食べたいです』と返信が来た。少しだけ、口角が上がる。
スマホをジーンズのポケットに戻そうとすると、また通知音がして画面を見る。
『ヒョン、Aちゃんと連絡先交換出来たんですねー!』
ミンギュからだ。……その情報は一体どこから得たんだ。『ん』とだけ返信すると、よくわからないキャラクターのスタンプが返ってきた。意図が読めないので既読無視。
学校に到着すると、またミンギュからのメッセージが届いた。
『うちの学科の友達がウォヌヒョンに嫉妬してますよ〜ランチ楽しんで!』
…なんで俺は嫉妬されてるんだ。ただお昼を一緒に食べるだけなのに。シンプルに疑問に思いながらラウンジへと向かう。
空いている席に腰掛けて彼女を待つ。
教科書越しにAちゃんが見えた。俺を見つけると安心した様子でふわりと笑う。
「お待たせしました」
ただ、お昼ご飯を一緒に食べるだけ。
そんな日常も、この子といると悪くないと思う。
「いや、急に誘ったけどよかった?」
特別になるわけでもなく、かと言って退屈でもない。
少しずつ、水彩絵の具が水に溶けて滲んでいくように。
変化していくこの関係を、俺は結構気に入っている。
1405人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「SEVENTEEN」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
奈々ごん(プロフ) - 初めまして!久しぶりにきゅんきゅんする小説に出会いました。ありがとうございます!口角が上がってしまうくらい好きな小説です! (6月13日 13時) (レス) @page50 id: dda75e19fb (このIDを非表示/違反報告)
夏目(プロフ) - KYANAさん» 初めまして!楽しんでいただけて嬉しいです!応援ありがとうございます!励みにして頑張りますね! (2021年2月9日 18時) (レス) id: e14acee8c3 (このIDを非表示/違反報告)
KYANA(プロフ) - はじめまして!最近見つけて読ませていただいているのですが、本当に最高です…!更新応援しています!! (2021年2月9日 0時) (レス) id: 6aecb490a8 (このIDを非表示/違反報告)
夏目(プロフ) - ハナさん» 感想をいただけると本当にモチベーションが上がるのでそう言っていただけて光栄です(;_;)!!ありがとうございます…!私もハナさんのこと大好きです!!! (2021年1月29日 11時) (レス) id: e14acee8c3 (このIDを非表示/違反報告)
ハナ(プロフ) - 夏目さん» 素敵すぎてついつい感想を伝えたくなってしまって…!私こそ夏目さんのお話に癒しをもらってます!大好きです!!!(ただの告白) (2021年1月28日 23時) (レス) id: aea125837e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:夏目 | 作成日時:2021年1月15日 17時