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少し離れたところにいたウォヌさんがゆっくりとこちらにやってきた。
「ありがとうございます…」
「一応、もう1回確認しとくけど」
私の前に立った彼が呟く。薄暗い廊下に彼の大きな影が被さり、私はほとんど真っ暗だ。
「はい」
「俺とこれからどこかに行くのは嫌じゃない?」
ウォヌさんの顔が、ほとんど見えない。
さっきは余裕そうな笑みを浮かべていたけれど、今回はさっきよりも少し低めのトーンで聞かれた。
「行きたいです」
表情が、わからないはずなのに。
彼の感情が動いたのがなんとなくわかった。それが良い方向に向いたのか、悪い方向になってしまったのかは予想もつかないけれど。
ウォヌさんは暫く黙った後に、「行くか」とエレベーターに歩き始めた。
「近所に新しく出来たカフェ、美味しいプリンがあるるらしい」
エレベーターが到着するまでの間に、ウォヌさんが教えてくれる。大好きなプリンの情報に反応しながらも不思議に思った。
「プリンが好きなの、言いましたっけ?」
「プリンタルト」
その単語だけで直ぐに理解出来た。あ〜、と納得しているとエレベーターの扉が開く。
「今日はチェ教授ゼミのプレ歓迎会な」
「まだゼミに入れるかもわかってないのに、歓迎してくださるんですか?」
「前歓迎するって言ったから。それに俺もあのカフェに行ってみたかった」
そう言えば私がチェ教授のゼミを見学した時にそんなこと言ってもらったような……まさかこんなに早く歓迎して貰えるとは思わなかった。
ウォヌさんは聞いたことない歌を口ずさみながらのんびりと私のペースに合わせてくれる。
「ウォヌさんはコーヒーが好きなんですね」
「まあ、人よりは好きかもな」
この前私のバイト先でもホットコーヒーを頼んでいた気がする。
「私、ウォヌさんのおかげでコーヒーが好きになったんですよ」
「……あの日、」
気付いたら学校の最寄り駅に着いていた。ウォヌさんが改札を通った後に立ち止まる。
「初めてAさんにコーヒーをオススメした日、絶対断られると思ったから嬉しかった」
初めて、彼に名前で呼ばれた。ウォヌさんの口元は綺麗な弧を描いて微笑んでいて。
ああ、私は本当にこの人のことが好きなんだな。
ただ、そう思った。
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奈々ごん(プロフ) - 初めまして!久しぶりにきゅんきゅんする小説に出会いました。ありがとうございます!口角が上がってしまうくらい好きな小説です! (6月13日 13時) (レス) @page50 id: dda75e19fb (このIDを非表示/違反報告)
夏目(プロフ) - KYANAさん» 初めまして!楽しんでいただけて嬉しいです!応援ありがとうございます!励みにして頑張りますね! (2021年2月9日 18時) (レス) id: e14acee8c3 (このIDを非表示/違反報告)
KYANA(プロフ) - はじめまして!最近見つけて読ませていただいているのですが、本当に最高です…!更新応援しています!! (2021年2月9日 0時) (レス) id: 6aecb490a8 (このIDを非表示/違反報告)
夏目(プロフ) - ハナさん» 感想をいただけると本当にモチベーションが上がるのでそう言っていただけて光栄です(;_;)!!ありがとうございます…!私もハナさんのこと大好きです!!! (2021年1月29日 11時) (レス) id: e14acee8c3 (このIDを非表示/違反報告)
ハナ(プロフ) - 夏目さん» 素敵すぎてついつい感想を伝えたくなってしまって…!私こそ夏目さんのお話に癒しをもらってます!大好きです!!!(ただの告白) (2021年1月28日 23時) (レス) id: aea125837e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:夏目 | 作成日時:2021年1月15日 17時