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それからたまにチョンさんと学校ですれ違うことがあっても、会釈するばかり。
カフェでも相変わらず言葉は一言も交わさず、コーヒーをマニュアル通りにいれてくれて。ただ、それだけ。
…なんてことを考えてしまうけれど、私はチョンさんと仲良くなりたいの?
授業中、そんなことまで考えてしまうようになってしまった。重症だ。
でも1年もただの店員とお客さんって関係だったのに…今更どうしてこんなに気になるんだろう。
思ったよりも、近い関係性だったから?
それって何だか、調子のいい話な気がする。
「A、この後空きコマだったよね?」
ユアの声で我に返った。
「空きコマだけど、ゼミ見学のアポ取ってるんだ」
「そっか。一緒に図書館で映画見ようと思ってたのにな〜」
ユアが残念そうに唇を突き出している。ごめんね、と謝って手早く荷物をまとめた。
取り敢えず気になるゼミは全て回ってみよう、と予約してみたチェ先生のゼミ。
緊張しながら研究室の棟へと向かい、扉の前に立つ。
ノックして扉を開けようとしたのに、扉のノブが動いてくれない。
「…?あれ?」
一応研究室の位置や時間を確かめたけど、やっぱりここだ。
参ったなぁ、とスマホを開いてダメ元でメールを確認してみる。
「キムさん?」
聞こえてきた声は、私の知っている声。声のする左側を向くと、今朝もカフェでコーヒーをいれてくれた、彼が立っていた。
薄暗い廊下に、私達だけが立っていて。
「…何か、困ってる?」
チョンさんが聞いてくれる。誰もいないこの廊下だと、妙に声が反射して聞こえた。
「あの、チェ先生のゼミの見学に来たんですけど、研究室にまだ誰もいないみたいで」
小さい声でそう答えると、チョンさんが少し笑みを浮かべた。
「チェ先生はいつも授業が始まってから10分経たないと来ないよ。だから、ゼミ生も10分経たないと来ない」
そ、そうだったんだ。少し安心した。
「ありがとうございます…」
チョンさんがこくりと頷いて、私の横に立った。少し離れたところに来て壁にもたれて本を開く。
しん、と静かな廊下が戻ってきた。
チョンさんはチェ先生のゼミなのか。あと10分もこの状態は少し気まずい。
「………ここ、」
暫くしてチョンさんが本を閉じて、ぼそりと呟いた。
「え?」
「ここ、いつもそうだけど、暗いから本読むと目が疲れるな」
暗闇だけど、いつもよりも柔らかく見えたチョンさんの笑み。
そんな彼の笑顔を、見つめていた。
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奈々ごん(プロフ) - 初めまして!久しぶりにきゅんきゅんする小説に出会いました。ありがとうございます!口角が上がってしまうくらい好きな小説です! (6月13日 13時) (レス) @page50 id: dda75e19fb (このIDを非表示/違反報告)
夏目(プロフ) - KYANAさん» 初めまして!楽しんでいただけて嬉しいです!応援ありがとうございます!励みにして頑張りますね! (2021年2月9日 18時) (レス) id: e14acee8c3 (このIDを非表示/違反報告)
KYANA(プロフ) - はじめまして!最近見つけて読ませていただいているのですが、本当に最高です…!更新応援しています!! (2021年2月9日 0時) (レス) id: 6aecb490a8 (このIDを非表示/違反報告)
夏目(プロフ) - ハナさん» 感想をいただけると本当にモチベーションが上がるのでそう言っていただけて光栄です(;_;)!!ありがとうございます…!私もハナさんのこと大好きです!!! (2021年1月29日 11時) (レス) id: e14acee8c3 (このIDを非表示/違反報告)
ハナ(プロフ) - 夏目さん» 素敵すぎてついつい感想を伝えたくなってしまって…!私こそ夏目さんのお話に癒しをもらってます!大好きです!!!(ただの告白) (2021年1月28日 23時) (レス) id: aea125837e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:夏目 | 作成日時:2021年1月15日 17時