1 ページ1
「コーヒーの抽出温度は90度で、まっすぐゆっくりと注ぐのがポイントです。
今日の豆は少し深煎りのものなので、温度は低めにして苦味を抑えていれます」
目の前の彼は、まるで機械のようにそう言い切った。
けれどそんな感情のない低い声も、朝に聞くと心地いい。何より、マニュアルをそのまま暗記している彼がツボだ。
朝の8時。
世間が動き始める時間、私は行きつけのカフェにいた。
…行きつけのカフェと言うと少しオシャレに聞こえるけど、たまたま近所にあるから朝ごはんを作るのが面倒で通っているだけ。
ただ、この個人経営のカフェはコーヒーに拘りがあって、常連の好みに合わせてコーヒーをいれてくれるのだ。
紅茶派だった私も、おかげでコーヒーのことが好きになった。
「今日のコーヒーはエチオピア産だから香りもいいです。ごゆっくりどうぞ」
目の前の彼がカップに出来たてのコーヒーを注いでカウンター席に置いてくれる。
「ありがとうございます…」
彼はよく朝番で入っているチョンさん。私が通い始めた1年前からずっとここで働いている。
たまに寝癖をつけている猫背のチョンさんは、あまり常連の私に声をかけてこない。
…話かけられた、というのは1度だけ。
あれは半年ぐらい前のことだろうか。
『おはようございます。』
『…おはようございます』
半年前の朝、いつも通りモーニングを食べに行くと、彼もいつも通りレジに立っていて。眠そうにしながら挨拶をしてくれた。
メニュー表を見て何セットにしようかな、と迷っている時。
『あの、』
初めて声をかけられたのでビックリして顔を上げた。あの時のことは未だに鮮明に覚えている。
『え？』
『今日は、コーヒーを飲んでみませんか？』
何故だろうか、あの時の笑顔が忘れられない。
いつもとは違ったお兄さんの笑顔に見とれてしまって。
爽やかな朝に、イケメンのお兄さん。こんなにいい朝があるんだろうか。
『……はい、』
無意識にこんな返事をしてしまった。
その時、彼が目を少し見開いて。
『飲みます？』
『え？』
『今日は僕のいれるコーヒー、飲みます？…練習したんです。ハンドドリップ。』
気づけば断れずに、ハンドドリップコーヒーを注文していた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1405人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「SEVENTEEN」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
奈々ごん(プロフ) - 初めまして！久しぶりにきゅんきゅんする小説に出会いました。ありがとうございます！口角が上がってしまうくらい好きな小説です！ (6月13日 13時) (
レス) @page50 id: dda75e19fb (このIDを非表示/違反報告)
夏目(プロフ) - KYANAさん» 初めまして！楽しんでいただけて嬉しいです！応援ありがとうございます！励みにして頑張りますね！ (2021年2月9日 18時) (レス) id: e14acee8c3 (このIDを非表示/違反報告)
KYANA(プロフ) - はじめまして！最近見つけて読ませていただいているのですが、本当に最高です…！更新応援しています！！ (2021年2月9日 0時) (レス) id: 6aecb490a8 (このIDを非表示/違反報告)
夏目(プロフ) - ハナさん» 感想をいただけると本当にモチベーションが上がるのでそう言っていただけて光栄です(；_；)！！ありがとうございます…！私もハナさんのこと大好きです！！！ (2021年1月29日 11時) (レス) id: e14acee8c3 (このIDを非表示/違反報告)
ハナ(プロフ) - 夏目さん» 素敵すぎてついつい感想を伝えたくなってしまって…！私こそ夏目さんのお話に癒しをもらってます！大好きです！！！(ただの告白) (2021年1月28日 23時) (レス) id: aea125837e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：夏目
| 作成日時：2021年1月15日 17時
