アホ犬と男装御主人様！！ (ページ45)

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　《第四十四匹》ページ45

「もぅっ、あの人ったら酷いのよ？私に明日帰るとか嘘ついて先に帰っちゃうんだから」

　頬を膨らませて怒る美人さんてのは、可愛いの一言に尽きる。
　───と、まぁそんなことは置いておき。この、どっから見ても20代の美人さんに見えるこの人はこれでももう4……失礼。俺の母親であり、年の割には若々しいと言っておこう。

　瀬川裕美子。母さんの名前である。
　本当、何故あの泣く子も黙る顔面した強面の父さんと結婚したのか謎である。そして、最強の名を欲しいままにする父さんを尻に敷くなど、この人しか出来ないだろう。

「だから、私てっきり浮気かと思っちゃって……それで浮気って単語が聞こえてきたからつい……」
「悪かったよ。今度からはAと大事な話があるからってちゃんと言うよ」

　「約束よ？」と母さんが可愛らしく笑い、指切りげんまを父さんとする。──まぁ、本当に針千本飲ませそうな黒い笑みは怖いが。流石母さんである。

「それよりA、ちゃんとご飯食べてる？翔と2人暮らしなんて、母さん心配。痩せすぎよ？男の子なんだから、ちゃんと食べなきゃ大きくならないわよ？」
「心配しなくてもちゃんと食べてるから大丈夫だって。……兄貴に関してはノーコメントだけど」
「そう？じゃ、母さん夕飯の支度してくるから、お父さんと仲良くね」

　優しく笑いかけて母さんが部屋を出た。

　母さんは、一見普通に見えるが、実はちょっと精神的に病んでいる。
　──まぁ、原因は俺のせいだ。

　だから、俺は男として生きていく。
　───俺が女として生まれたから、それが、罪だから。

　戸籍上は男だが、言えば女として生きていくことも出来るだろう。
　だけど、それを俺は赦せない。母さんが今普通なのは、俺が男であるからで、母さんが俺が女だという事実を受け止めればまた狂ってしまうだろうから。

　で、父さんはそれを知らない。知られてはいけない。母さんが壊れてしまうから。

　───だから、どんな形であれ、一生俺は幸せになってはいけないんだ。

　それが俺にとっての、自分勝手な、罪滅ぼしだ。