アホ犬と男装御主人様！！ (ページ29)

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　《第二十八匹》ページ29

「────...かっこつけて」
「いいんだよ！僕も結構これ、恥ずかしい...でも、何かそうしないと、消えそうだから、さ...」

　それに、彼女は笑って、笑顔を俺に向けてきた。
　それは、一瞬ドキッとする程、可愛くて。いや、今の俺はどんな顔だったかは思い出せないけれど、ただ、そうだったのは憶えている。

「まぁ、いいか。あ、あれ乙女座だ！」
「どれ？」
「ほら、あれ！」
「んー...。僕にはよく分かんないや」
「まぁ、──も乙女座しか分からないけど。他のは何て言うんだろう...」

　その言葉に、俺は「じゃあさ！」と、声をかけて彼女の前で星空の下に手を大きく広げて言った。

「僕が今度、全部教えるよ！乙女座も、乙女座以外も！今はまだ何も分かんないけど、いつか教える！」

　だって、乙女座について話したり指差したりしていた時、凄く楽しそうで、笑顔だったから。

「ほんと？じゃあ、その時は教えてね！」

　さっきまで泣いていた彼女はどこにいったのか。いつの間にか涙は止んで、満面の笑みを浮かべていた。

◇◇◇

「まぁ、という訳で、覚えるようにはなったんだけど、普通に調べていく内にハマったんだよ。...って、何でそんな訝しげなんだよ」
「いや、いきなりアホ犬の初恋聞かされてもな...」

　何というか、ロマンチック...？なんだが、言うことがどこのラノベの主人公だ、と言いたい。

「後、セリフがお前じゃない」
「いや、俺じゃないって、じゃあ俺何よ？」
「...ワン？」
「それもろ犬じゃん！！」

　その盛大なツッコミは、静かな学校に響き渡った。...さっきまでの餓死？とかどうでも良くなってるな、隼人の奴。

「だから、アホ犬だろ？」
「...てか、俺の初恋違うし」
「違うのか？」

　意外だ。如何にも、初恋の話じゃないか。鈍いだけか？
　...まぁ、アホ犬だし仕方ないか。
　その女の子絶対恋してるぞ。可哀想...いや、この場合、アホ犬と恋愛してる方が可哀想なのかも知れないが。

「あぁ、俺、初恋したのはしたんだが...」
「だが？」

　うーんと、少し唸った後、ぽつぽつと、申し訳程度で、

「うろ覚えというか...誰にしたのか覚えていないんだ」
「は？」
「こればっかりは本当なんだよ！何か、好きで、どうしたのかは覚えてるんだけど、名前と顔が、記憶の中でぼやけてるんだよ」

　それを聞いた瞬間、何というか...

「やっぱりアホ犬なのか...」
「うっ...」

　そんな言葉しか出てこなかった。