Beloved . ページ9
＊
｢マンジロー！起きろー！｣
｢…………｣
朝、耳障りな声に目を覚ます。そこには、エプロンをつけた赤髪、茶色がかった黒瞳の女。女は仁王立ちで言う。
｢おはよう！飯！GO！｣
｢…………ほっといて｣
｢嫌だね、家族だもん。ほらほら起きて、ご飯冷める！来なかったら……そうだな、アンタのバブ私仕様にする｣
それだけ言ってさっさと部屋を出ていった。………私仕様にするってなんだよ………
そう思いながら渋々起きて、キッチンに向かう。その途中、鼻腔を掠めた匂いには、と目が覚めた。
急いでキッチンに向かうと＿＿＿エマが作ってくれたのと同じ見た目のオムライス。ちゃんと、旗まで立ってる。
｢なんで、これ…………｣
｢＿＿＿おはよう、万次郎｣
呆然としていると、じいちゃんが声を掛けてきた。じいちゃんの前にもオムライスがある。
｢ほれ、座れ｣
｢じいちゃん、……この、オムライス、エマ、……｣
｢………それはそうじゃろうな。なんて言ったってエマに料理を教えた真一郎が、龍嘩に料理を教わったんだからの｣
｢！｣
シンイチローに料理を教えたのが、龍嘩………？
じいちゃんに『食ってみろ』と言われて、自分の席に座って食べてみる。
＿＿＿エマと、同じ味。
一生食えないと思った味が、舌を転がる。
こんなの、偽物だ。
エマはもう死んだんだ。
………けど。
｢＿＿＿どう？うめえだろ？｣
そう言ってに、と笑う龍嘩。
その顔は………全く似てないはずなのに、シンイチローを思い出させたんだ。
＿＿＿＿でも、シンイチローじゃない。
｢……………｣
俺は、出そうになる涙を押さえて、黙って食った。懐かしい味のせいでスプーンは止まらず、全部食った。
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作者名：O | 作成日時：2021年10月17日 17時
