龍はたい焼きを食す ページ14
＊
私は甘い物を欲した。
喧嘩の後の甘い物は格別美味しいから。
………とはいえ、だ。
｢………ナニコレ？｣
｢たい焼き｣
｢……………｣
目の前には＿＿＿湯気を立てた魚の形のたい焼き。ご丁寧に2つもある………って。
｢何故！たい焼き！？｣
｢甘いモンだろ｣
｢甘い物だけど！今どきって言ったじゃん！？｣
｢たい焼きはマスト。あとどら焼きもな｣
｢………｣
どっちもよく知ってますよええ。美味しいですよね知ってます。
悔しいことにたい焼きは滅茶苦茶美味い。出来たてほかほかの餡ギッシリ。けど悲しいかな、味の想像は出来る。
｢…………ねえ｣
｢？｣
涙を呑みながらたい焼きを食べていると、万次郎が声をかけてきた。たい焼きを頬張りながら見ると、虚ろな瞳を私に向けていた。
｢なんで、助けた？
………お前にとって俺は他人だ。
助ける義理なんてないだろ。
それに、俺一人でどうにかなった。
他人のお前になんか助けられたくなかった｣
｢……………｣
そう言った万次郎。明らかに強がってる。それは喧嘩の事ではなく、『私が助けた事』に関して文句を言っているようだった。……本気で、心の底から言っているのは十分伝わってくる。
だから、向き合わないと、と思った。
私はたい焼きを1つ食べ終わってから、言葉を紡いだ。
｢＿＿＿別に、助けた訳じゃない。ガソリン代とその他諸々の諸費用をアンタに返済しただけ。
………っていうのは建前で。
弟を守るのはお姉ちゃんの役目でしょ？だから代わりに買った｣
｢………お前は、お姉ちゃんなんかじゃ……｣
｢あーあーあーあー、面倒くせー｣
｢わっ｣
私はたい焼きの袋をゴミ箱に向かって投げて、万次郎の頭を撫でた。ふわふわモコモコのくせっ毛が心地いい。
｢アンタがどー思ってるのかは知らん。私はアンタじゃないしね。私が勝手にアンタのねーちゃんだと思ってる。
……真一郎の代わりにはなれないけど、それでも、『家族だ』と思わせてよ｣
｢＿＿＿＿！｣
私が笑うと、万次郎は目を見開いた。
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作者名：O | 作成日時：2021年10月17日 17時
